小さいころからのカメラ趣味だが、「禁断の果実」と避けていた古川さんにとって初めてのライカとなるのが前列のM8。後列は右から、高校時代に撮りまくっていたというニコンF2。それにニコンD2X、ニコンD3。ニコンのデジタル一眼レフは、D1から発売後3カ月以内に全部購入している。また収集するのではなく、実際に撮るというようにノクチルックス50ミリF1.0、カナダ産ズミルックス35ミリF1.4などレンズの数が凄い。それぞれの味わいを楽しんでいる
小さいころからのカメラ趣味だが、「禁断の果実」と避けていた古川さんにとって初めてのライカとなるのが前列のM8。後列は右から、高校時代に撮りまくっていたというニコンF2。それにニコンD2X、ニコンD3。ニコンのデジタル一眼レフは、D1から発売後3カ月以内に全部購入している。また収集するのではなく、実際に撮るというようにノクチルックス50ミリF1.0、カナダ産ズミルックス35ミリF1.4などレンズの数が凄い。それぞれの味わいを楽しんでいる
ビル・ゲイツとは親しい。「メディアでは怖い顔の写真が多いんですが、本当は表情豊かなんですよ」と人間性の一面を語ってくれた
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カメラとともに鉄道も幼少のころからの趣味で、現在日本鉄道模型の会(JAM)会長も務めている。自宅の鉄道模型風景、噴煙はデジタル合成とのこと
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米コロラドとニューメキシコの州境を走るクンブレス&トルテック鉄道。機関車と沿線の風景、乗務員を撮り続け、写真集「Cumbres & Toltec」として出版している。ニコンD2Xで高度約200メートルからの空撮
米コロラドとニューメキシコの州境を走るクンブレス&トルテック鉄道。機関車と沿線の風景、乗務員を撮り続け、写真集「Cumbres & Toltec」として出版している。ニコンD2Xで高度約200メートルからの空撮

――使われているのはニコンD3とライカM8。やはり仕事柄デジタルがお好きなのですか。

 ニコンのデジタルはD1からずっと購入してきましたから、D3もその流れです。

 逆にライカは、M8が初めて。じつはライカはずっと避けてきたんですよ。だっていったんはまると病が深そうじゃないですか。M3とかM4をお使いなっている方を見ると、これを使いこなしたり、似合うかっこいいオヤジになるにはまだまだ修行が足りんと我慢していました。でもMのデジタルが発表になったところでもうたまらんと、出荷前に予約を入れて購入しました。使ってみて、自分はこんなに写真が下手だっけと思い知らされましたね。一眼レフのファインダーと違うから構図を失敗して頭が切れていたり、なによりリズムが違う。ちゃんと撮るには修練が必要だなあと思いました。それとやっぱり、レンズがどんどん増えていきます。この間もリコーGRデジタルⅡを買いに行ったつもりが、帰ってきたぼくの手にあったのはフォクトレンダーのノクトン・クラシックF1.4。ほかにもカナダ産ズミルックスF1.4とかズミルックスMF2とか、35ミリばかり4本も持っていてどうするんだと。

 でもいろんなレンズを使ってくると同じ焦点距離でも、どう絞ればどういう雰囲気の写真が撮れるとか、味の違いがだんだんわかってくる。そうなるとカメラもレンズも持っている性能を100%引き出してやるぞって気になるんですよ。それが写真を撮る醍醐味でしょうね。

――米国のSLを撮り続けてますね。

 ええ、先日もデンバーから600キロ南にある鉄道を撮ってきました。ぼくは蒸気機関車は人間が作った機械の中で、もっとも人間に近いと思っているんですよ。動かすために石炭を食わせなきゃいけないし、坂道をあえぎながら登るところとか人間くさい。ヘリコプターをチャーターして空撮したこともあります。日本ではとても高いんですがアメリカだと10分の1程度、ちょっとぜいたくな旅行をしたぐらいの金額です。ドアもなくて飛び上がった瞬間、体は地表で魂だけ宙に持っていかれるような貴重な体験でした。

 写真集(「Cumbres & Toltec」)も出しました。これは鉄道を保存するNPO(http://www.ngpf.org)を主催しており、その活動を支援するために写真集の売り上げを全額寄付する仕組みになっています。オールカラーですごくぜいたくな出来なんですが、デジタルデータをアメリカで編集し、香港に電子伝送、香港で印刷後、アメリカに直接納品すると、192ページのオールカラーが5ドル以下でハードカバー製本までできてしまいました。個人の写真集を出すというのは写真を撮っている人の夢だと思うんですが、アメリカに発注することでその夢がかないました。

 もちろん人も撮ります。ぼくはビル・ゲイツ(米マイロソフト会長)の追っかけをやっていて、世界でいちばん彼の写真を撮っているんじゃないかと思う。彼はメディアに紹介されるときは怖い顔の写真ばかりですが、本当は優しい笑顔を浮かべたり、表情豊かなんですよ。いちばん新しい写真は、ニコンD3の撮り初めです。

――カメラだけでなく、写真を撮ることも好きなんですね。

 カメラのメカニズムも好きですが、実際に使って撮ることで、その時代の雰囲気や思い出もカメラと共有できると思うんです。このニコンF2の底は、へこんでいるでしょう。高校2年生のときに学園紛争があって、突入してきた機動隊の警棒でバーンと殴られた痕(あと)なんです。ユージン・スミスや土門拳など社会派の写真家が好きで、「写真で社会を変えられるかもしれない」と信じていた。これはそのとき自分が信じていたものの痕でもあるんです。いまでもこのへこみとか、当時の写真を見ると目頭が熱くなります。SLの写真集を出したのも、そういう意味では写真で世界を変えられると思っているからなんですね。

※このインタビューは「アサヒカメラ 2008年5月号」に掲載されたものです