「肥(ふと)ったブタになるよりやせたソクラテスになれ」。1964年、東大の卒業式で大河内一男学長が語ったと報じられたが、実際はライトにあてられ、そこを読みとばしていた。それが予定稿のまま新聞に載り、卒業生まで「聞いたような気がする」と言う……。
 こんな「ニュースの裏側」を記録した『デスク日記』が、半世紀ぶりによみがえった。共同通信社会部デスクだった原寿雄さんが小和田(こわだ)次郎の筆名で月刊誌に連載したもの。当時の5巻本から選んで一冊にした。
 ほんとうのことを読者と共有して「真実の報道、民衆のための言論に近づける」ため、大企業や政治家、芸能プロとの攻防を明かし、マスコミ界の情けない部分も書いた。
 固有名詞は古びても、著者の問いかけは今を貫く。ベトナム戦争の時代。自国が戦争を進めるとき、新聞が「真に愛国的たりうる道」は何か。証券会社の経営破綻危機では「社会を動揺させるものを報じない」原則を批判した。反戦運動などに触れた番組が中止・変更させられた数々の放送中止事件を記録。政治とメディアの距離を照らし出す。

週刊朝日 2013年8月9日号