最近、「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」というチェーン店がすごく人気らしい。立ち飲み中心なのだが、料理がうまくて値段は激安、店員がすすめるワインもたいへんいいのだとか。東京の銀座8丁目や新橋あたりに何店もあるそうだ。
坂本孝『俺のイタリアン、俺のフレンチ』は、経営者がそのノウハウを紹介したビジネス書である(レシピ本ではないのでご注意を)。副題は「ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方」。
この著者名、どこかで聞いたことがあるなと思ったら、そう、あのブックオフの創業者である。中古ピアノの買い取り販売で成功し、そのノウハウを古書に応用したのがブックオフ。1990年に登場して、あっという間に日本の読書を変えた。いまじゃ街でいちばん大きくて品揃えもいい書店はブックオフ、というところも珍しくない。早大で教えていたとき「日本で感動したのはブックオフ。私の国にも持ち帰りたい」と中国からの留学生が熱く語っていた。たしか坂本はスキャンダルが原因でブックオフを離れたのでは?
中古ピアノから古本へ、そして外食産業へ。共通点は何かというと価格破壊だ。それも安かろう悪かろうではなくて、いいものを安く売る。一流の料理人を連れてきて、安い値段で提供するのだ。
原価率は高い。そのかわり回転率も高い。立ち飲み中心にして内装にはお金をかけない。だから人の多いところにしか出店しない。徹底的な割り切りである。繁盛するのもわかる。落ち着いてゆっくり飲み食いしたいぼくには苦手なタイプの店かもしれない。
そんなに回転率が高くては、働いているほうも大変だろうと思うが、「私は、社員を第一に大切にしています」と書いている。客より優先順位が高いそうだ。これも常識破り。いまはどんな会社でも顧客第一主義というのに。
面白いのは、人材の確保方法。自分で引き抜いたりせず、人材紹介会社を通すのだそうだ。
週刊朝日 2013年6月28日号