パンダは双子を産んでも大きな子しか育てず、もう一方を見殺しにする。サルの一種であるハヌマンラングールのオスは群れのボスになると先ず自分の血が流れていない乳飲み子を殺す。テレビ番組などでほのぼのと語られることの多い動物の子育てだが、実態は虐待や子殺しが横行している。行動の原理となるのは自分の遺伝子のコピーをいかに残すかだけであり、種の保存の意識はない。
 たくましいと言えばたくましいが残酷と言えば残酷な動物の一面を描写しているが、我々、人間も実は例外ではない。本書後半で取り上げる最近の育児放棄や児童虐待の事例からは、遺伝子を効率よく残す人間の本能が透けて見える。
 とはいえ、「人間も動物の一種」と悲観しても仕方がない。著者は、母親を孤立させないためにも、虐待を前提とした制度を構築する必要性があると説く。常識では突拍子もない意見にも映るかもしれないが、人間は自分たちが思っているよりも本来、理性的ではない。本書はそのことを強烈に自覚させてくれる。

週刊朝日 2013年6月21日号