シルバー川柳とはいかなるものか。その面白味を端的に伝えようと工夫したのだろう、タイトルにも一句盛ってある。
〈誕生日 ローソク吹いて 立ちくらみ〉
 いわゆる老年世代の日常に題材をとったシルバー川柳は、社団法人全国有料老人ホーム協会が主催し、2001年から毎年公募されてきた。そこで入選した作品群から88句を選んでまとめられたこの本には、日本の超高齢社会の現実がつまっている。
○医療に支えられた長寿の実情
〈延命は 不要と書いて 医者通い〉〈無農薬 こだわりながら 薬漬け〉〈クラス会 食後は薬の 説明会〉
○老々介護
〈ボランティア するもされるも高齢者〉
○子どもの独身問題
〈二世帯を 建てたが息子に 嫁が来ぬ〉
○しのびよる呆け
〈立ちあがり 用事忘れて また座る〉〈忘れ物 口で唱えて 取りに行き〉
○孫への愛情
〈「いらっしゃい」 孫を迎えて 去る諭吉〉〈孫の声 二人受話器に頬を寄せ〉〈孫帰り 妻とひっそり茶づけ食う〉
 厳選された傑作ぞろいなだけに、どれを読んでも苦笑する。巧いなあ、と声に出して感心する。諧謔の精神に裏打ちされた自虐の妙味がそうさせるのだが、当事者たちが客観したそれらの自画像は、だからほのかな哀愁を読後に残す。つい老いた両親の顔を思い出し、掲載されている川柳をヒントに二人の本音を探ってしまう。そして、自分にも訪れるその時を想像する。
〈飲み代が 酒から薬に かわる年〉
 1句に1ページを割き、〈中身より 字の大きさで 選ぶ本〉よろしく大きな字を用い、明るい素朴なイラストを添えた編集と造本の良さも見逃せない。内容とデザインが快く組み合わさって税込み千円。売れないわけがない。

週刊朝日 2012年11月30日号

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