映画コメンテーターのLiLiCoさん(撮影/写真映像部・高野楓菜)
映画コメンテーターのLiLiCoさん(撮影/写真映像部・高野楓菜)

 アカデミー賞国際長編映画賞をはじめ、海外で高い評価を受けてきた『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)。映画館での上映もまだ続いており、7月23日にはWOWOWで放送される。長く関心の火が消えないものの、見た人によってかなり評価が分かれるのが特徴。映画コメンテーターのLiLiCoさんに、なぜ世界で愛され、国内で賛否が分かれる作品なのかを聞いた。(※一部ネタバレを含みます)

*  *  *

――この映画は、妻を失った男の喪失と希望を綴った村上春樹の小説がベース。上映時間は3時間に及び、流れるように話が進むものの、それぞれのシーンの意味は明瞭ではありません。低評価のレビューで圧倒的に多いのが「何がいいたいのか、わからない」という感想です。

 この映画を見て、もし今「わかんなかった」と感じたなら、10年後にもう1回見てほしい! 私も最初は上映時間3時間!?って驚いたけど、見始めたら長さは全然気にならなくて「あ、わかる」と思った。と同時に「私、大人になったな」とも感じたんです。それなりの年齢まで生きてきて、人生のすったもんだを知っているということが一つの理由なんだと思う。

 わからなかった人も、ある意味で正解。はっきり言います、映画は好みです。みんなが好きな『タイタニック』だって苦手な人はいます。特に、この作品は理解する映画ではなく、浸る映画ですから。

――浸る映画。言いえて妙ですね。この映画を「好きだ」という人は、映画の世界観に惹かれているようにも思えます。「考察」をして、自分なりの解釈をSNSで披露している人も目立ちました。

 ストーリー展開や背景をはっきりと説明しないところは日本ならではだなと思いました。アメリカの映画だったら、最初のナレーションで2人の過去が明かされるだろうけど、映画が進むにつれて男女が夫婦であり、子どもを失うという悲しい過去を抱えていることが徐々にわかってきます。人の死や土砂災害というストーリーも決して大きくは描かず、美化したり笑い飛ばしたりすることもない。

 静けさで包んで包んで、スモーキーに描いていく。見た人が役者さんの表情から感じ取ってくれるか、という監督の挑戦なんだと思うんですよね。すごい1本なんです。

次のページ
大事な役割を持った「タバコ」