1956年東京都生まれ。1980年のデビュー以来、第一線で活躍し続けている。
1956年東京都生まれ。1980年のデビュー以来、第一線で活躍し続けている。

 アルバム『ENTERTAINMENT!』には、エンタテインメント業界の功罪をテーマにした「エンタテインメント!」、〈古い世界/蒼い未来/どこにも行けない〉というフレーズを持つ「合言葉 - Save It for a Sunny Day」といったシングル曲を中心に構成。そして『今、何処 (Where Are You Now)』には、“自由な心を持ち続ける人たちに。”をテーマに掲げたコンセプチュアルな作品となっている。その背景にあるのは、混迷を深める現代の社会だ。

■敬愛する手塚治虫から学んだこと

 経済的な格差をはじめ、あらゆる場面で分断が進み、暗い話題ばかりが広がる現在。そんな社会を照らし出しながら佐野は、その先にある未来のビジョンを描いてみせる。

「アルバムに収録されている楽曲のほとんどは、パンデミックになる前に書きました。ちょっと先の未来に行って、そこで見たものをスケッチして戻ってくる、そんな感覚ですね。ただ、憂鬱なビジョンに引きずられないように意識していました。ロックンロールやポップミュージックにそういうイメージを持ち込むべきではないというのは、僕の基本的な考えです。そのことを教えてくれたのは、子どもの頃から敬愛している手塚治虫の作品。世界は性善説に貫かれているというメッセージを少年の心でキャッチしました。子どもの頃、手塚さんの仕事場を訪ねたこともあるんですよ。アニメーション制作の現場を見せてもらいました」

 そう、アルバム『今、何処 (Where Are You Now)』の根底にあるのは、揺れ動く時代や社会に惑わされることなく、しなやかな魂を持ち続けようする姿勢だ。そのスタンスを支えているのが、佐野をはじめとするバンドの演奏。60~70年代のロックやソウルなどを現代的なポップミュージックに結びつけたアレンジ、生き生きとしたサウンドもまた、この作品の魅力なのだ。

「大切なのはサウンドの躍動感、演奏のダイナミズム。そのために僕らは、ライブと同じようにメンバー全員で演奏したものを録音しています。こういうスタイルでレコーディングしているアーティストはあまりいないんじゃないかな。ライブで演奏するときに再現しづらくなることを避けたいので。オーバーダブ(多重録音)もできるだけ少なくしています。アレンジやサウンドに関しては、どうすればリスナーのみんなが楽しんでくれるだろう?と想像しながら作っていることが多いですね」

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