圧迫排尿とは、腹壁の中の膀胱(ぼうこう)を外から手でぎゅうっと押して、尿を外に絞り出してあげることです。片方の手で体を押さえ、もう片方の手で水風船のように膨らんだ膀胱を探し、ちょうどよい力加減で押すにはコツが必要です。入院の間、練習に通いました。
1週間ほどでカイは退院できましたが、骨がつくまでしばらく安静が必要で、わが家でも首と体をギプスのように固定して寝かせました。固定は生きるためにするケアですが、そのころのカイは「僕なんていつ死んでもいいんだ」というような力のない目をしていて、切なく思ったものです。でも食欲はあり、少しずつ、体が大きくなりました。
家に来て2、3カ月して固定が外れると、目に力が出て表情が明るくなりました。
後ろ足はだらんと伸びたままでしたが、上半身と肩の力で「匍匐(ほふく)前進」します。キャットタワーにもぶら下がったりして、前脚にムキムキ筋肉がついてきました。たくましく生きようとするカイのため、私は、圧迫排尿をがんばりました。
■誰にも優しく甘え上手の人気者
カイには、ほかの猫と少し違うところがありました。
まず、自分が知っているどの猫よりもフレンドリーで穏やかでした。猫と暮らすと「生傷が絶えない」といいますよね。私も気の強い先代猫にひっかかれることがありましたが、カイは怒ったことが一度もなくて、私の気を引く時は、“ちょんちょん”と前脚で静かにこちらの体に触れるのです。
神様はカイに、体が不自由な分、誰にでも愛される性格を与えたのかな?
素直で優しいカイは、他の猫との関係も良好でした。先代の猫たちは、最初こそ「なんか動き方がへんかな」というように見ていましたが、すぐに打ち解けました。カイがずるずると足をひきずって進む後をついていったり、くっついて寝たり。
病院に預けた時も、カイはケージの中から「遊ぼう」と手を伸ばすので、看護師さんたちは「誘いにのってしまう」といって可愛がってくださいました。