
ボクシングは選手自身の人間性や生き様が如実に現れる競技。見ている側が自身をボクサーに投影させ、選手たちに共感してしまうスポーツでもある。
見ている人の数だけ名選手や名勝負が存在するが、長年ボクシングを見続けた人間にとっては、どのボクサーが印象に残っているのか。元JBC(日本ボクシングコミッション)事務局長で現理事長付顧問の安河内剛氏に、心に残る忘れられないボクサーは誰なのか聞いてみた。
「世間的な露出度や知名度で言えば、ファイティング原田(元世界フライ、バンタム級王者)、具志堅用高(元WBA世界ライトフライ級王者)、辰吉丈一郎(元WBC世界バンタム級王者)、長谷川穂積(元WBC世界バンタム、フェザー、スーパーバンタム級王者)、山中慎介(元WBC世界バンタム級王者)など。当時の同階級では敵がいない最強ボクサーでした。今回、具志堅の試合を改めて見たのですが、スピードが凄かったですね。全員が飛び抜けた技術、精神力を武器に世界を獲りました。別格であり今でも名前を聞く機会は多いと思います」
ここで挙げた選手以外にも現在進行形で世界の誰もが認める井上尚弥もいるが、今回は「あえて名前を挙げたい」と世間的にあまり知名度はないものの、「素晴らしい資質を持った名ボクサー」と評する4人のボクサーをピックアップしてくれた。
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●大橋秀行(元日本ジュニアフライ級王者、WBC、WBA世界ストロー級王者。現大橋ジム会長)
~飛び抜けた技術を誇った150年に1人の天才
「一番印象に残っているのは、早山進/本名:田中正人(元日本ジュニアフライ級王者)との6回戦(後楽園ホール)。この試合で早山に1発もパンチを当てさせず、全てにカウンターをかぶせて完璧に勝利した。ほんの少しのスウェーでかわしながらパンチを打つ。自分もボクシングをやっていたが、『こんな選手もいるんだ』と挫折感を感じました」
「本人が見たら気を悪くするかもしれないですが、適正体重でやれば井上に匹敵する世界王者になれた。減量がきつかったと思います。適正体重より下の階級でやった方が、パンチの威力などで有利になる。そこでの戦いもあったはずですが、素晴らしい実績を残しています。150年に1人の天才は大袈裟ではない」