かつては拒食症と呼ばれていた「神経性やせ症」やいったんのみ込んだ大量の食べ物を意図的に吐き出す「神経性過食症」などは、「摂食障害」と呼ばれる精神疾患の1つです。うつ病、統合失調症、不安症といった精神疾患を持つ人の半数は10代半ばまでに発症しており、全体の約75%が20代半ばまでに発症しています。精神科医で東京都立松沢病院院長の水野雅文医師が執筆した書籍『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)から、「摂食障害」についてチェックシートとともに、一部抜粋してお届けします。前編・後編の2回に分けて紹介します。
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【摂食障害とはどんな病気?】
摂食障害は、食事の量や食べ方など「食事に関連した行動の変調」が続き、体と心の両面に影響が及ぶ病気の総称です。代表的な摂食障害は、必要な量の食事を食べられない「神経性やせ症」で、かつては拒食症と呼ばれていました。自分では食欲や食事の量をコントロールできずに極端に食べ過ぎてしまう「過食性障害」や、いったんのみ込んだ大量の食べ物を意図的に吐き出す「神経性過食症」など、さまざまなタイプがあります。背景には、体重や体形に対する極端なこだわりや体重増加に対する極度の恐怖、精神依存症などが存在します。
日本で医療機関を受診している摂食障害患者は年間約21万人と報告されていますが、一度も治療を受けたことがない人や治療を中断している人もたくさんいます。10代半ばから20代の若い世代で発症しやすく、患者さんの9割以上が女性とされています。
摂食障害は体の成長や心の発達を妨げるだけでなく、日常生活、学業や仕事といった社会生活、家族関係や友人関係など多方面に深刻な影響を及ぼします。さらにやせや栄養障害で生理が止まる、低身長になる、骨のカルシウム量が減って骨折しやすくなる、嘔吐の繰り返しで胃酸によって虫歯が進行するなど、さまざまな合併症が起こります。低栄養で低身長になったり、身体機能が維持できなくなったり、嘔吐、下剤の乱用などによって体内のナトリウムやカリウムといった電解質のバランスが崩れ、生命にかかわることもあります。CTで脳の検査をすると、大脳の萎縮が見られる場合もあります。