床を這いながらうめいているTを見下ろしながら、U君が静かに言いました。
「おまえ、J中でおれらの名前使ってこんな子いじめて、調子に乗ったらあかんぞ。これからはN中の名前を使うな。自分の力でのし上がれや」
自分の力でのし上がれ……。
僕は、U君の言葉を聞きながら、半ば感動していました。
こういう男気というか、侠気というか、そういうものは不良漫画の世界だけのことだと思っていたのです。でも、本当にこの世にあるんだなと、感心してしまったのです。そして、尼崎の不良界のトップが、元クサクサの僕をかばってくれたことにも感動していました。
U君が、自転車に乗って帰ろうとする僕らに向かって言いました。
「Tが前で漕げ。オオシロは後ろに座っとけ」
Tは、命からがら自転車を漕ぎ始めました。僕はU君に言われた通り、後ろの荷台に乗りました。
気まずい時間が流れていきます。
でも、心配する必要はありませんでした。Tは筋金入りの“小物”だったのです。
U君たちの姿が見えないところまで漕ぐと、Tは自転車を止めてこう言いました。
「オオシロ、おまえ、前乗れ」
僕は、
「かっこ悪いところ見せてもうたな」
ぐらい言うのかと思っていたのですが、このひと言には心底失望しました。
しかも、翌日登校すると、Tはわざわざ僕のところへやってくるとこう言うのです。
「昨日、あれからUがオレの家に謝りに来たでぇ。さっきは悪かったな言うて」
(だっさーーーーーーーーーーー、ウソつけやーーーーーーーーーーーーーーー!)
心の中で、僕は思い切りこう叫びました。
U君がそんなことをするはずがありません。Tがウソ八百で生きてきた人間なのが、よくわかりました。一見同じように見える不良でも、Tのようなやつは三流の不良です。そしてU君のような一流の不良には、筋の通った人が多いのです。しかも、厄介なのはいつも三流の不良と決まっているのでした。