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 U君がこう言うと、幹部全員が一斉に復唱しました。

「ホンマのこと言わんかい!」

 僕はもう、半泣き状態で答えました。

「は、はいっ、じ、じ、じ、じつはパシリにされたり、な、殴られたりしています。すみません」

 なぜか、U君がじーっと僕の顔を見つめています。

「おまえ、オオシロ言うたな。おまえ……クサクサオオシロちゃうんか」
「えっ、あのっ」
「おまえ、クサクサオオシロちゃうんかい!」
「あの、ええっ?」

 突如、幼稚園時代のことが走馬灯のようによみがえってきました。

 僕は、N中の近くにある幼稚園にバスで通っていたのです。そして、当時から風呂に入るのが嫌いだったのでいつも体が臭かったらしく、S先生という美人の担任の先生から、

「フミ君、お風呂入ってる?」

 と毎日のように尋問されていたのです。そして、幼稚園時代のあだ名が、クサクサオオシロだったのです。

 しかし、なぜ、U君がそのことを知っているのでしょうか。

「リス組や。おまえ、リス組やったやろ」
「はい、リス組でした」
「リス組で一番強かったんは、誰や?」
「リス組で一番強かったのは……それは、タカシ君です。タカシ……えっ、ま、まさか……」
「オレや、リス組のタカシや」

 U君はなんと、リス組のリーダー、Uタカシ君だったのです。

 実に10年ぶりの再会でした。

 すでに幼稚園時代からリーダーとしての才能を開花させていたU君は、いまや尼崎不良界のスーパースターとしてその名を轟かせていたのでした。

「おまえ、幼稚園の遠足の時、親から菓子パン一袋だけ渡されたオレに、おかんが握ったおにぎりひとつくれたの覚えてるか。オレは覚えてるんや。おまえのおかんのおにぎり、しょっぱくておいしかったで……」
「オレ、帰るわ」

 Tが急に腰を浮かしました。すると、僕にゲーム機を貸してくれた、あの優しそうな幹部の人が、いきなりTの腹をボンと殴ったのです。太鼓を叩いたような、見事な音がしました。

「う……」

 Tがうめき声をあげながら床に倒れました。それを合図に、幹部連中が猛烈な蹴りを入れ始め、Tはあっという間にボコボコにされてしまいました。

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Tは筋金入りの“小物”だったのです