たまり場は、おそらく幹部の中の誰かの家でした。広さは8畳ぐらいあって、隅っこに小さな流しがついていました。奥にもうひと部屋ありましたが、そこは幹部の人のお母さんの部屋のようでした。エロ本とゲーム機と灰皿。チンピラがひとり暮らしをしているような、とても殺風景な部屋でした。
幹部の中には学ランを着た人もいれば、スラックスにセーターを着込んで首にチェーンを巻いた、わかりやすいヤーさんスタイルの人もいれば、ベタに龍の刺繍の入った黒いジャンパーを着込んでいる人もいます。僕は緊張のあまり、正座を崩すことができませんでした。
Tは幹部の人たちにとても気を遣っているよう見えましたが、口では偉そうにこう言うのです。
「おまえら、オレがいなくなった後、どやった」
すかさず幹部のひとりがこう切り返しました。
「おまえ、なに生意気言うてんねん。いつもとしゃべり方が違うやんけ。このオオシロいうの連れてきて、N中の幹部と五分五分やとアピールしとんか」
さすが幹部です。鋭い指摘をされたTは、
「や、や、や、や、や、そんな……」
と焦っています。
僕はしばらくの間、幹部の中の優しそうな人が「ゲームしいや」と貸してくれたゲーム機で遊んでいました。
すると突然、たまり場にピッと緊張が走りました。番長のU君が入ってきたのです。
純白のトレーナーに、トラサルディでしょうか、ダボダボのジーンズをはいたU君には、本当に後光が差して見えました。背が高くて、ものすごい筋肉をしています。中学生には違いありませんが、大日本プロレスの練習生の若手レスラーぐらいの迫力があります。
Tが僕を紹介しました。
「こいつオオシロ言うて、クソいじめられっ子でどうしょうもないやつなんや」
僕は落語家が師匠に挨拶をする時のように正座をして、U君に挨拶をしました。
「こ、こ、この度は、お、お初にお目にかかります……」
U君がおもむろに口を開きました。
「T、なんでおまえ、そんなに偉そうやねん。おい、オオシロ、Tにいじめられたことあるか?」
「いやっ、な、な、な、ないです」
「おまえ、Tにいじめられとるやろ。ホンマのこと言わんかい」