内閣府が15年12月に公表した推計では、最大のM9クラスの地震が発生すると、本州から九州の広い範囲で、長周期地震動階級4「立っていることができない。揺れに翻弄される」の揺れが超高層ビルに生じることがわかった。東京や大阪などの100~300メートルのビルでは最大2~6メートルの振幅で揺れる。
南海トラフ地震の発生確率は、今後30年以内に70~80パーセント。ビルの寿命のうちにほぼ確実にやってくる。
■補助利用はわずか8棟
この推計を受けて、国土交通省は、16年6月、対策強化を打ち出した。南海トラフ地震で大きな長周期地震動が想定される地域(関東、静岡、中京、大阪の4地域11都府県)に新築する超高層ビルは、より厳しい長周期の揺れを想定するように定めた。
また、この地域にすでに建設済みの超高層ビルについては、最新の想定をもとに耐震診断をし、安全性の検証や必要に応じた補強などを求めた。
しかし、既存ビルでの取り組みは、まだにぶい。国交省は、17年から対象地域にあるタワーマンションなどの区分所有建物に耐震診断や工事の費用を補助する制度を設けているが、これまでの利用は8棟にとどまっている。費用がかかることや、工事中の住環境悪化などについて、入居者の合意形成を得ることが難しいことが理由のようだ。
「超高層に住んでいる人、働いている人は、南海トラフ地震が起きたとき、自分の居る場所がどんなふうに揺れるのか、それに耐えられるか想像して、備えておいてほしい」
そう、名古屋大学の福和伸夫名誉教授は言う。制震や免震の装置を備えている新しい超高層ビルでも、必ずしも長周期地震動に対して万全とはいえない場合があるので、注意が必要だとも指摘している。
エレベーターや電気、水道、トイレもある程度の期間、使えなくなる恐れも考えておく必要がある。
2月1日からは、気象庁が長周期地震動の緊急地震速報も開始した。超高層ビルが大揺れを始める数秒から数十秒前に、それを知ることができるかもしれない。そのわずかの時間に、あなたは何をすべきなのか。今一度、対策の指針などを見直して考えておくべきだ。(ジャーナリスト・添田孝史)
※AERA 2023年3月6日号より抜粋