日本における女性学の第一人者で東京大学名誉教授の上野千鶴子さんの著書が、中国で次々に翻訳されブームとなっている。『女ぎらい ニッポンのミソジニー』(単行本は紀伊国屋書店、文庫版は朝日新聞出版)もそのうちの1冊で、単行本は中国国内で版が重ねられている。副題にある通り、日本社会におけるミソジニー(女性嫌悪)に光を当てる内容だが、儒教的な家父長制が残る中国や韓国など東アジア圏の若い女性たちから根強い支持を得ている。その理由は何か。著者の上野千鶴子さんに聞いた。
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中国で「上野千鶴子」の名前が広く知れ渡ったのは2019年。東京大学の入学式で上野さんが述べた祝辞が大きなニュースとなってからだ。
「祝辞はすぐに中国語に翻訳され、中国版のツイッター『微博(ウェイボー)』で、あっという間に拡散されました。中国では私の知名度は低かったはずなのに、特に若い世代の人たちに急速に知られるようになりました」(上野さん、以下同)
この祝辞は日本でも話題となり、「あなたたちのがんばりを、どうか自分が勝ち抜くためにだけに使わないでください」など東大生に向けられたメッセージは、高学歴エリートの社会的な意義とは何かを考えさせられた。
祝辞にはその他にも多くのメッセージが込められていたが、上野さんは、祝辞のどの部分が響いたのかを中国の若者たちに聞いた。すると「頑張ってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています」という文言が彼らの心をとらえたことがわかった。
「日本よりも厳しい学歴競争を強いられる中国では、頑張って努力して大学を卒業しても、思うような職に就けず、報われない思いをしている若者が多くいます。また、市場化が進むにつれて、女子学生が不利になる傾向も強まりました。農村部に比べて都市部の学生の方が良い教育を受けることができるなどの不公平もあることから、この部分が中国でも共感を集めたようです」