■「ミソジニー」という言葉を使う理由
上野さんが書名に「ミソジニー」という言葉を入れたのには、理由がある。同書が最初に単行本化された2010年10月。当時はフェミニズムへの風当たりが強く、フェミニストが脅迫されたり、上野さん自身も講演会をキャンセルされたりしたという。そこで、本のタイトルに「フェミニズム」や「ジェンダー」は入れず、副題に「ミソジニー」という、当時は聞きなれない言葉をあえて選んだ。フェミニズムに抵抗感を持っている人でも、「女ぎらい? ミソジニーってなんだ?」と思って、手に取ってもらおうという戦略だった。
「若い女性読者からは『こんな考え方があるんだ、新鮮』という反応がきてショックを受けました。フェミニストにとっては常識になっていることばかりを書いたつもりだったので、正直、その反応には驚きました。若い人が『新鮮』と受け取ったということは、それまでの私たちのメッセージが伝わってきていなかったということですから」
フェミニズムは、かつて「職場の潤滑油」と呼ばれていたものを「セクハラ」と呼び替え、夫婦や恋人間の「痴話げんか」を「DV」、「つきまとい」を「ストーカー」と名付けるなど、女性の経験を再定義してきた。女性たちの経験を言語化、理論化してきたのがフェミニズムだ。
「この本のネタ元は、アメリカの文学研究者、イヴ・セジウィックの『男同士の絆』です。セジウィックの理論を日本社会に当てはめて解いたのですが、セジウィックが言わなかったことも論じました。理論は現実を説明するツール。ミソジニー、ホモソーシャル、ホモフォビアの3点セットを使えば、中国でも韓国でもどこの国の事例を代入しても応用問題を解くことができるのが強みです」
ミソジニーはどの社会にも普遍的に存在する。だからこそ、国境を越えて、読み継がれているのだろう。(AERA dot.編集部 岩下明日香)