中国は人口抑制のため、1979年から2014年まで「一人っ子政策」が実施されていた。その結果、男児対女児の出生性比は113.5対100(2015年)と、男児が異常に多くなる事態となった。相対的に女子の数が減ったことで、少なくとも学生時代までは女性も手厚い教育を受け、大事に育てられるようになった。それでも、中国社会で長く続く家父長制の影響などもあり、社会に出ると女性差別は横行していた。
2015年に中国語簡体字で刊行後、大学の授業で『女ぎらい』が指定文献になったこともあった。2017年、上野さんは上海にある復旦大学に招かれて集中講義をすることになった。その際、学生たちに「あなたがミソジニーを経験した時」という問いに答えてもらったという。
「生まれた時に祖父母から『なんだ、女か』と言われたなど、女子学生たちからはぞろぞろと経験談が出てきました。共産主義社会では、女性も男性と同じように労働に従事してきましたが、改革開放後に市場経済に移行するにつれ、企業は平等よりも効率を重視するようになった。すると、子どもを産んで育てる女性の存在が負担になっていったのです」
また、市場経済は格差拡大をもたらし、男子学生にとっては結婚のハードルも高くなった。
「男性が家を用意することが結婚の条件となり、まずその壁を越えられない男性が増えました。妻と共働きはデフォルトで、子どもは祖父母が育てるのがあたりまえ。一人っ子政策が緩和されてからも、経済的負担が大きいため2人目を産む人があまり増えず、少子化が続いています。これは韓国も同じ状況です」
家父長制が根強く残る中国や韓国などの東アジア圏において、ミソジニーを問題視する若い女性が増えた背景には、この少子化が大きく影響していると上野さんは解く。
「少子化により、家庭や学校の中では差別を受けず、娘も大事に育てられるようになりました。偏差値競争は男女平等ですから、男子よりも優秀な女子がいることが実感できます。しかし、社会に出てみたら、女性は不当な差別を受ける。こんな不条理な差別をガマンする理由は何もない、という平等意識の高い若い女性たちが社会に増えてきているのです」