80年代には霊感商法が大々的に報じられた(写真は朝日ジャーナル1986年12月5日号)
80年代には霊感商法が大々的に報じられた(写真は朝日ジャーナル1986年12月5日号)

 ILAのスタッフはその「人生の転換期」をきっかけに「世界のために自分ができることを考えよう」と語りかけ、ドキュメンタリー風のビデオを見せた。世界中で起こっている悲惨な事件を例に挙げ、「世界は滅びる」といった映像を繰り返し見せられる。やがて、ビデオは世界の破滅を回避する手段を示すようになり、どうすれば平和な世界が実現するかと訴えた。それは旧統一教会の教えに従い、協力して働くことだった。

 予備校が夏休みに入ったころ、「ILAは旧統一教会の下部組織である」と入会していた友人から打ち明けられた。竹迫さんは愕然とした。なぜ最初から言わなかったのか――友人を問い詰めたが、旧統一教会の教えに背けば死後の世界で耐え難い苦しみにさらされると教え込まれていたことが怖くなった。それに、心やさしい仲間たちを失いたくなかった。

 その数日後、12日間のスクーリング(勉強会)に参加した。内容は講師のビデオを見るだけの退屈なものだった。だが、画面に韓国の老人が映し出された直後、参加者の間に衝撃が走った。「この文鮮明こそが、世界を破滅から救う現代のメシアだ!」と興奮ぎみのナレーション。そこでスタッフは初めて、ILAと統一教会の関係を参加者全員に告げた。

 戸惑う参加者。「騙された」という表情で抗議する人もいた。

学生部長は現役東大生

 続けて仕上げの4日間の合宿が行われた。そこで徹底的に植えつけられたのは韓国人への贖罪(しょくざい)の意識と共産主義への恐怖だった。

「かつて植民地支配した朝鮮半島の人々に対して、日本はこんなひどいことしてごめんなさいっていうムードが盛り上げられていく。そこでサクラが率先してお祈りするわけです。『私たち日本人は罪を悔い改めて』と言うと、泣き出す人もいた」

 のちに、竹迫さんは「学生部受験科」に配属された。そこはいわば、浪人生のための部署。学生部長は現役の東大生が務めていた。竹迫さんは新メンバーを勧誘する「伝道活動」に励みながら、部長から英語や教義を学んだ。「映画で世界を救いたい」という強い信念で受験勉強に打ち込んだ。そして翌年、日本大学芸術学部に合格した。

 しかし、だ。

 なぜ、旧統一教会はわざわざ「学生部受験科」という部署を設けてまで、浪人生の面倒をみるのか? そこには、あわよくば浪人生を有名大学に送り込み、広告塔として利用したい意図があるという。

「学生を勧誘するとき『東大生もいますよ』と言うと、それだけで『おーっ』となりますから」

 一方、東大や早稲田大、慶應義塾大など「東京六大学」よりランクが下の大学生は、学業を放棄させられることが多いという。

「有名大学の学生以外は、学業よりも勧誘や物を売りつける活動のほうが重視されていました。なので、次第に学校に通わなくなって、中退を勧められるような雰囲気がありました」

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得意の「トカゲの尻尾切り」