北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

 さらに今、代理出産は高騰化傾向にあり、貧しい国、貧困層の女性たちが「お仕事」としてますます駆り出されていくことは簡単に想像できる。女性たちが手にする金額は国によって違うが(アメリカであれば420万円、ウクライナであれば275万円が相場だという)、日本人がアメリカで代理出産を依頼すれば1億円が相場になっている(仲介業者・医師・弁護士や保険の支払いなどが含まれる)。価格が安いウクライナは代理出産ビジネス大国であったが、戦争のため、「市場」は南アフリカに移りつつあるという。裕福な国の裕福な人が、貧しい国で貧困に喘ぐ女性たちを出産アウトソーシングに利用するビジネスは、既に珍しくはないのだ。でもだからといって、この国が、その方向に向けて舵を切る理由は何なのか?

 代理出産が孕む重大な女性への人権侵害について警鐘を鳴らしてきた「代理出産を問い直す会」の代表・柳原良江さんが監修した『こわれた絆―代理母は語る』(レナーテ・クライン等編著)という翻訳書が、年内に発売される。ここには、代理出産当事者の女性たちの声が集まっているという。ビジネスをする側ではなく、子どもを求める側でもない声が代理出産を語るとき、そこにはどのような事実が見えてくるだろう。また、当事者の声は、なぜこれまで子どもを産み手放す側の声が、これほどまで聞かれてこなかったのかという現実をつきつけるだろう。

 代理出産を体験した女性たちが味わう副作用や人間関係のトラブルは深刻だ。他者の胚で産むときに大量に投与されるホルモン剤の副作用、他者の卵子を用いるために引き起こされる問題、たとえ自分の卵子を使った妊娠であっても、食べるものから動作にいたるまで日常を契約によって厳しく管理される生活。妊娠中に子の障害がわかった時点で中絶を求められることもある(契約に含まれている)。実際、出産後に障害がわかった子どもが、依頼者から引き取りを拒否されたケースもあり問題になっている。また、オーストラリアでは、小児性愛者が虐待目的で代理出産を利用したケースもあった。

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依頼者目線の一方的な語られ方に警鐘を鳴らす