戦いを有利に進めるための奇策(イラスト/瀬川尚志)
戦いを有利に進めるための奇策(イラスト/瀬川尚志)

 奇策にもいろいろとあるが、暦のうえで合戦に適さないと考えられた日をあえて狙ったり、深夜や早朝の寝静まる時間を狙い、不意をつく方法がある。当時は、合戦に縁起のよい吉日と合戦に縁起の悪い悪日というものが占いによって判断されていた。当然、悪日には、敵も戦闘を想定していないから、その油断をつくのである。もちろん、悪日に開戦をすると味方も動揺してしまうから、悪日よりも前に出陣していたことにするなど、こじつけた解釈がされていた。また、深夜や早朝に奇襲することを、「夜討ち・朝駆け」といい、これも、日本では平安時代から一般的に行われている奇策である。

戦いを有利に進めるための奇策(イラスト/瀬川尚志)
戦いを有利に進めるための奇策(イラスト/瀬川尚志)

 また、『孫子』には、整然と進撃する敵と、堅固な陣を構える敵を攻めてはいけないという「正正の旗を邀うることなく、堂堂の陣を撃つことなし」(軍争篇)とある。そこで、「兵の形は実を避けて虚を撃つ」(虚実篇)べきだという。つまり、攻撃するときは、「実」すなわち戦力の充実した部分を避け、戦力の手薄な「虚」の部分を狙うものだった。敵の手薄というのは、相対的に軍勢が少ない状態、着陣したばかりで陣形が固まっていない状態、長途の進軍により疲労している状態、不利な地形に布陣している状態、警戒を怠っている状態、隊伍が乱れた状態などである。また、対陣中でなくても、移動中で隊形が整っていないとき、狭い道や険阻な道を通過しているときなどは手薄な状態といえる。

戦いを有利に進めるための奇策(イラスト/瀬川尚志)
戦いを有利に進めるための奇策(イラスト/瀬川尚志)

 逆に、味方は、たとえ「虚」の状態にあったとしても、「実」の状態にあるとみせかけなければならない。そのような時は、味方の軍勢に旗を多くもたせて大軍であるかのように見せつける。こちらが「正正の旗」・「堂堂の陣」だと敵が判断すれば、「虚」の状態のまま攻撃されることを回避することもできる。

 敵と味方との戦力に差がなく、互いに守りを固めて対峙すれば、戦線は膠着してしまう。こうした場合、『孫子』は、「利をもって動かし、卒をもって待つ」(勢篇)という。軍勢を動かすのが有利であると敵に思わせ、その動いたところを攻撃するという奇策である。わざと敗走するふりをして伏兵で攻撃することもあるし、こちらが強大で敵が弱小の場合、自陣をわざと乱して、敵から攻撃を仕掛けてくるようにし向けることもできる。

※週刊朝日ムック『歴史道別冊SPECIAL 戦国最強家臣団の真実』から