士気の上げ方「鬨の声を上げる」/合戦を前に鬨の声を上げさせることで、アドレナリンを分泌させて将兵たちの闘争本能を呼び覚ました(CG/成瀬京司)
士気の上げ方「鬨の声を上げる」/合戦を前に鬨の声を上げさせることで、アドレナリンを分泌させて将兵たちの闘争本能を呼び覚ました(CG/成瀬京司)

 日本の合戦では勝利を得るために、規則や手順などの作法が決められていた。それは、開戦前の作戦会議から縁起担ぎ、合戦中の行動、さらに撤退時の「陣払い」まで多岐に及んでいる。週刊朝日ムック『歴史道別冊SPECIAL 戦国最強家臣団の真実』では「合戦の作法」を特集。ここでは兵の「士気の上げ方」と「奇策」を解説する。

【馬を発情させることも奇策のひとつ? イラストはこちら】

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 広大な戦場では、現代のような拡声器もないので、声に出して命令を全軍に伝えることはできない。そうしたなかで用いられたのが、太鼓・鐘・拍子木・法螺貝といった、いわゆる鳴り物である。

 いかに大軍を動員しても、指示通りに兵が動かなければ、烏合の衆でしかない。戦国時代の合戦では、大軍を規律正しく動かすことができるか否かが勝敗の鍵を握った。軍勢を動かすために用いられた鳴り物は、想像以上に重要だった。

 大軍を動かすのに必要な指令は、集合と散開、前進と後退などである。これらの命令を、鳴り物によって伝えていたのだ。現代における野球のサインのようなものであり、当然、敵に知られてはいけない。残念ながら、こうした鳴り物をどのように使い分けていたのかは不明である。それぞれの大名家によって用いる鳴り物も違えば、鳴らす方法も違っていたであろう。

 鳴り物を用いた一番の目的は、命令を伝えるためではあるが、士気を高める効果もあった。士気を高めるために、全軍で鬨(とき)の声を上げることもある。これを勝利したときに行うことを、「勝ち鬨を上げる」という。鬨の声は、大将が「えいえい」と叫んだあと、軍勢一同が「おう」と応えるものである。全員で「えいえいおう」と叫ぶものではなかった。

正攻法だけではなく
奇策を用いて勝利をめざす

 兵法書の『孫子』には、「およそ戦いは、正をもって合し、奇をもって勝つ」(勢篇)とある。「正」とは、定石通りに正面から勝敗を争う正面攻撃のことで、こうした戦術をとる軍隊を「正兵」とよぶ。「奇」とは、思いがけない方法、つまり奇策を用いて敵を攻撃することで、こうした戦術をとる軍隊を「奇兵」とよぶ。『孫子』は、正攻法で衝突すれば、味方の被害も甚大になるため、できる限り、奇策を用いて戦いを有利に進めるべきだという。

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