たとえば、認知症になった親を高齢者施設に入居させるかどうか迷っているとき、親の希望を聞こうと思っても、もう満足な答えは返ってきません。そうなる前に少しでも親と話をしていれば、自分だけ、あるいは家族だけで決めることにはならないでしょう。

 一人暮らしができなくなったら私の家族と一緒に住む? 施設に入居する? この家はどうする? もしもの場合の延命治療は? など、確かめたいことは山積みですが、元気な間には話しにくい話題かもしれません。話を切り出すと、「俺を殺す気か」と言う親もいるでしょう。

 最初は、そういう話がテレビや新聞などで出てきたら、偶然を装って、一般論としてどう思う?と話題をふってみるのがいいでしょう。高齢者施設はこんなメリット・デメリットがあるみたいよ、介護保険ではこんなことをしてもらえるみたいなど、親に情報を提供するのも大切です。たとえば施設に入ったらもう二度と家には帰れないなど、誤解のうえに自分の考えを組み立てている場合も少なくないからです。

 親族や友人の葬式や法事、施設入居のタイミングでは、「いいお葬式だったね。お母さんならどういうのがいい?」「おじさんはからだが不自由になって施設に入ったんだね。お父さんがもしそうなったら、家にいたい?」など、もう少し話を進めてもいいでしょう。子どもだから聞く、親だから聞ける、お父さん(お母さん)の思いを大事にしたいから、と誠実な態度で話せば、答えてくれない親はいないでしょう。

 親には一日でも長生きしてもらいたい、いつまでも甘えさせてくれる存在であってほしいという気持ちは誰でももっています。しかし親はいずれは老いて、子どもであるあなたが世話をする立場になります。そのときに突然感を抱いてパニックに陥るか、親の老いを早い時期から察知して納得して受け止めるか、それはあなたの心の準備次第です。これがあるかどうかで、あなたと親、双方にとって快適な介護生活を送れるかどうかが決まってくると、私は思っています。

(構成/別所 文)

高口光子(たかぐちみつこ)

元気がでる介護研究所代表

【プロフィル】

高知医療学院卒業。理学療法士として病院勤務ののち、特別養護老人ホームに介護職として勤務。2002年から医療法人財団百葉の会で法人事務局企画教育推進室室長、生活リハビリ推進室室長を務めるとともに、介護アドバイザーとして活動。介護老人保健施設・鶴舞乃城、星のしずくの立ち上げに参加。22年、理想の介護の追求と実現を考える「高口光子の元気がでる介護研究所」を設立。介護アドバイザー、理学療法士、介護福祉士、介護支援専門員。『介護施設で死ぬということ』『認知症介護びっくり日記』『リーダーのためのケア技術論』『介護の「毒(ドク)」は「孤独(コドク)」です。』など著書多数。https://genki-kaigo.net/ (元気が出る介護研究所)

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