24年の夏季五輪が開催されるパリは違います。五輪のためだけに街を改造するのではなく、100年後を見据えて都市構造を変えていく。そのうちの一つとして五輪を招致し、新しいパリを見せますよと。
一方で、東京はこのような将来的な視点がないまま五輪をやってしまった。都の大きな責任だと思います。そしてこれはいま招致をめざしている札幌市の姿勢にもつながってくる話です。
本間:五輪を活用するという視点ですよね。「儲ける」と「活用する」が両輪で動けばまだよかったけれど、東京五輪では「儲けるためのお祭り」というだけで突っ走った。ただ、たとえすばらしい都市計画と五輪が連動していたとしても、それを可能にするお金は誰が負担するのかとやはり考えてしまいます。札幌市では22年、お金がなくて除雪ができない状況について、秋元克広市長の名前から「秋元の壁」と揶揄(やゆ)する言葉がSNSで話題になりました。そんなレベルの財政基盤で、五輪を活用する都市改造ができるのかというと難しいでしょう。借金ばかりが膨らんで危険だから招致はおやめなさい、としか私は言えないです。
■問われる将来ビジョン
杉本:札幌市は招致の目的として「観光客を増やして地域の活性化を」という趣旨のことも言ってますが、当たり前すぎるビジネスモデルで経済効果のことしか頭にない時点で、将来へのビジョンは欠けていると言わざるを得ません。
例えばこの先、気候変動の影響で日本の農業の集積地がすべて北海道に移る可能性のあることが、もう10年以上前から指摘されています。そうなったとき機能するために、札幌市は五輪を開催することで何ができるのか。「招致して道路や通信網、住環境をこう変えます」など、札幌、北海道、あるいは日本全体が今後どう変化していくかを踏まえたうえで、札幌はこんな役割を果たせる、だからこれだけのお金が招致と開催に必要なんです、といった話ができて初めて、「やってみてもいいかな」ということだと思うんです。
1回のお祭りのためだけではなく、「10年後20年後の具体的に実践できる将来ビジョンの中に、札幌五輪というものが含まれている」という招致活動をしない限りは、世論が賛成するしない以前の現実的な話として「夢も希望も何も与えない五輪」になってしまうでしょう。だったら、札幌五輪はやめたほうがいいと思います。
(構成/編集部・小長光哲郎)
※AERA 2023年1月2日-9日合併号