今やすっかり定着している「脳活」や「脳トレ」といった言葉。そのためか、我々はつい、「脳は使うほど良い」といったイメージを持ってしまいがちだ。こうしたイメージに対し、「あくまでも適度な使用が大事」と唱えるのは、千葉大学脳神経外科学教授の岩立康男氏。著書『忘れる脳力』(朝日新書)のなかで、まじめさゆえに、飽きても同じことを続けてしまうことのリスクを伝えている。
まじめな人ほど抱えてしまいがちな脳のリスクとは、一体何なのだろうか? 『忘れる脳力』の一部を抜粋して解説する。
健全な脳を保つためにも、脳の活用は〝過ぎたるは及ばざるがごとし"だ。適度に使うことが重要なのであって、使いすぎてはいけない。
適度に脳を働かせるためには、どうすればいいのか?その最大のコツは、「疲れたら休む」 「飽きたら違うことをする」ということにある。疲れを感じるということは、そのとき使っている脳の部位に、エネルギーを生み出す物質(ATP)の使用後に分泌される物質「アデノシン」が蓄積してきたことを示している。
そのままの活動を続けていたら、活性酸素が溜まり、不溶性タンパク質が蓄積して、脳の細胞死が始まってしまいますよ、というサインなのだ。
そして「飽きる」ということもまた、脳の特定の部位が疲れて、アデノシンが蓄積し始めたことを示している。疲れたなと感じたら、あるいは飽きてきたと思ったら、意識的に違うことをするように心がけよう。
脳を疲弊させないために最も有効なのが、違うことをすることなのだ。これは言い換えれば、「集中系と分散系をバランス良く使う」ということである。
脳には大きく分けて、「集中系」と「分散系」という2つのシステムがあり、使い方に偏りが生じれば、脳が十分な休息をとることができず、疲弊してしまう。
集中系というのは「目的を持って何かの仕事に集中している」ときに活性化する部分で、逆に、主に「ぼーっとしているとき」に活性化しているのが分散系だ。
集中系と分散系は、片方の活性時には他方を抑制し、休ませている。両者を交互にバランス良く活性化させていけば、それぞれに適度な休息を与えることにつながり、脳の健康寿命は延びていく。