写真:著者提供
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 その後、幸運にも松尾さんが手がけるアーティストのデビュープロジェクトをお手伝いすることになったのですが、アーティストへの厳しくも愛情あふれるまなざし、音楽ジャーナリストとしての知識と経験に基づいた説得力と発想には、驚かされることばかりでした。

 尊敬してやまないのは、その言葉の選び方、かけ方です。アーティストの魅力をより一層引き出すには、どのような言葉をかけたらよいのか。言葉の持ついい効果と悪い効果、その両方を常に意識しているように感じます。

 そして、決して「自分が」と前に出ない。基本姿勢はあくまでもアーティストが一番輝くためのサポート役なのです。

●フィードバックは具体的かつ論理的に

 松尾さんマジックを身をもって体験したのが、EXILEの楽曲『Ti Amo』のレコーディング、曲中に一言ナレーションを入れるという仕事でした。

 スタジオには、プロデューサーの松尾さん、エンジニアさん、レコード会社のスタッフが同席しますが、ブースには私一人きり。慣れない楽曲制作の現場で、最初のテイクのあと「今の感じでよかったのか」と緊張しているところに、こんなアドバイスが。

<聞く人の心に深く届けるために、アタック(出だし)をもう少し柔かくしてみますか>
<曲の状況をさらに細かくイメージしてください。主人公である彼女はどんな心境?>

 など、「この部分を具体的にこうすればさらによくなるのでは?」という冷静で的確なアドバイス。同時に相手に対するリスペクトも忘れません。そして実際にやってよくなると、しっかり言語化してフィードバックしてくれるのです。

 ときに高いレベルを要求されますが、それは「あなたならもっとできる!」とポテンシャルを認めた上でのこと。これはアーティストにとって、やる気や自信が引き出されることです。

 まるで、ここぞという大一番で選手を奮い立たせる名監督、名コーチのようだ!と。

 言葉ひとつでアーティストの個性と性能を発揮させるのはもちろん、チーム全体にとってよい方向へと舵を切り、荒波も乗り越え、成功に導く「場づくり」の天才。スタジオでご一緒するたびに、そのさりげなくも珠玉のお声がけ、こっそり盗ませてもらっています。

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最後の達人は?