寝たきりの高齢者を訪問診療しながら、かたわらにいる、患者の孫やひ孫の健康も確認する。昭和初期には一般的だった開業医の姿である。

「最近では、離島医療をおこなうDr.コトーのイメージでしょうか。実は私を含めて多くの医者は、『Dr.コトーのような医師になりたい』と医学部をめざした人がとても多いのです。しかし、卒業時に、それができないことを知るのです」

 日本では医学部卒後、2年間の初期研修で複数の診療科を学び、その後、後期研修からは自分の専門分野を一つ決め、そこで専門医をめざすことになる。しかし、日本では長く、診療科は臓器別にわかれてきた。このため、

「気がついたら、『Dr.コトーから、ブラックジャックをめざす医師になっていた』というケースが多いのです」

 病院で働く中で、開業をめざすこともできるが、一般的には、働き盛りをすぎてからが多い。退職後にクリニックを開設するパターンも少なくないという。

「このため、専門科以外については、苦手意識を持つ医師が多いのです」

 一方、2018年4月から日本専門医機構による総合診療専門医の認定制度が始まった。結果、総合診療を学ぶことのできる大学が増えており、今後は大橋医師のように、最初から総合診療をめざす医師が増えることが期待されている。

 大橋医師がかかりつけ医のあるべき姿として挙げた、「なんでも相談できる医師」も増えてくると思われる。

 この「なんでも相談できる医師」は、具体的にはどのような機能をさしているのだろうか。

「例えば、最近の例ですが、高血圧で長年、通っている患者さんが、『最近、どうも転びやすい』と言う。診察するとパーキンソン病の疑いがあったので、すみやかに専門医に紹介をしました。こうした大きな病気は患者さんの人生の中で1回、あるかないか。このようなとき、いかに早期に発見をし、適切な医療機関に結び付けられるかがかかりつけ医の腕の見せ所だと思います」

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