「私は若手芸人のネタ見せをよく担当するのですが、2019年あたりの若手はみんな和牛の“へりくつ漫才”をまねようと必死でした。ただ、あの漫才は和牛だからこそできるもので、相当な技術を要するため、ほとんどが“下位ランクの和牛”みたいなことになっていましたね。強めのキャラが続々登場するM-1において、和牛のたたずまいはまさしく一線級だった。しかし、お茶の間の視聴者はそこまでM-1などに詳しくないですから、関西圏以外でなかなか知名度が上がらなかったのだと思います」(前出の放送作家)
■非の打ちどころがない現代漫才
では、和牛はこのままテレビから消え去ってしまうのか? 民放バラエティー班プロデューサーはこう明かす。
「関西ローカルではまだレギュラー番組もありますし、『アメトーーク!』などの平場のバラエティーにも今後も出ると思いますが、最優先はあくまでも舞台のようです。彼らは毎年のように単独漫才ツアーをやっており、今年はコロナで1年延期となった『結成15周年全国ツアー』で大忙し。和牛は作家も入れず2人でネタを作ることが多いといわれており、相当忙しいと思います。ただ、彼らがテレビの露出を減らすのは正直もったいない。ツッコミの川西さんは関西では強めのキャラでかなり愛されていたのですが、全国区では鳴かず飛ばずでした。和牛本来の面白さが全国区のテレビでは認知されないまま終わってしまうのは彼らも本望ではないはず。銀シャリの橋本(直)さんもそうですが、テレビに本腰入れてくれたらもっとブレークできるはずなのに、彼らは舞台や営業で半年先までスケジュールがびっしりなんです。単発のオファーをお願いしても、なかなか出てもらえない。吉本や本人が選んだ道なら仕方ないですが、それだけテレビの魅力がなくなっていっている証拠かもしれません」
お笑い評論家のラリー遠田氏は、和牛の漫才のレベルの高さについてこう述べる。
「和牛の漫才は、どの要素を見ても非の打ちどころがない『現代漫才の完成形』の1つです。ネタ自体がよくできているのはもちろん、2人の演技力や表現力、ボケ・ツッコミの技術力も高く、それぞれのキャラクターも生かされています。水田さんの偏執狂的な理屈っぽさがネタの主題となっていて、それ自体は刺々しい印象を与えかねないものなのですが、川西さんの優しくマイルドなツッコミがそれを見事に中和しています。その意味でも奇跡的なバランスで成り立っているコンビであると言えるでしょう」
お笑い界の逸材であることは間違いない和牛。また全国区での活躍を見てみたい。(藤原三星)