写真はイメージです(Getty Images)
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作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、加害欲について。

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 10代で来日し、10年以上日本で生活してきた韓国人女性と、先日話す機会があった。

「韓国は生きづらかったです。日本で暮らすようになって、すごく楽になった」と言うのだが、それほどに韓国では女性の美に対して、あまりにも厳しい基準があったという。

「美人とはこういうもの。こういう目をして、こういうあごをして、こういう化粧をして、こういう格好をして……」そんな美の基準があまりにも一律的で一方的だったため、生きているだけでコンプレックスが膨らみ続けた。それが日本に来たら、わりとみんなが好きな格好をして、好きな化粧をして、「いろんな美人がいる」と思えたという。韓国では数年前に「脱コルセット」運動が起きたのだが、それは「押しつけられた美の基準=コルセット」を女性たちが脱ぎ捨てる意思の表明だった。厳しい規範があるからこそ、韓国のフェミニズム運動はより鮮明に強く、女性たちを引きつけるのかもしれない。

 とはいえ、日本に「それ」がないわけではない。韓国人の彼女にとっては、「女の美」という面で少し楽になる一方、激しくむしばまれることもあった。それが、あまりにも身近な「エロ」だった。

「男というものは、ここまで性欲に人生をかけられるのかと衝撃でした」

 受けた性被害は数え切れなかった。一歩街に出れば「若い女」という記号に吸い寄せられるように、そしてまるでそれが自分の権利であるかのように、性的なことを当然のように振る舞ってくる男たちに出会うのが日本社会だった。

 たとえば彼女は鉄道関係で働いていたのだが、堂々と盗撮する男の多さに驚いたという。一見、「鉄道好きのカメラマン」を装い、女性職員だけを撮る男たちだ。特にその女性職員たちがはめている手袋を目当てにする人も多く、近付いてきては丁寧な調子で「すみませんー、ボク、カメラマンなのですが、レンズを磨くのに、その手袋がすごくいいと聞いたので試させてもらっていいですか?」と声をかけてきて、手袋を渡すとそのまま走り去る男は一人や二人じゃなかった。会社も、その被害になんら対応してくれるわけではない。むしろ笑い話で終わらせられるのが常だった。「いっそのこと、性的な仕事に就いたほうが、割り切れるのではないか」と感じるくらいに、「性的対象でしかない」ことを突きつけられる体験を日本で味わった。

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「わからせ」という性暴力