平良さんは沖縄出身。「沖縄は大変ね」「沖縄はいいところね」――悪意はないのだろうが、これらの言葉をかけられるたびに腹が立つという。
「沖縄に基地を押し付けて、大変な状況にしているのはあなたがたヤマトの市民ですよ、と。自分たちの加害者性が見えてないんです。官邸前の行動は『一部の人を踏みつけにする社会でいいんですか』という問いかけでもあります」(同)
神奈川県の戸塚駅前でも、16年4月にゴスペルを歌う活動が始まった。第1火曜日の月1回、「戸塚駅を通行中の皆さん」とマイクで呼び掛け、歌声を響かせる。活動の「言い出しっぺ」は、牧師の渡邊さゆりさん(53)=横浜市=だ。
「沖縄に行った帰りに思い立ちました。自分たちの生活の場で、市民に向かって声を上げよう、と」(渡邊さん)
毎回10人ほどが参加し、一度も休会なく続けている。
「こんなことやって何の意味があるのか」「歌で基地はなくせない」と言われることもある。それでも渡邊さんは「沖縄は基地の犠牲者ではなく、被害者で、私たちは加害当事者です。沖縄差別を許しているのは私たち『本土』の人間。その責任を負いたい」「平和は与えられるものではなく、自分たちが追い求めてつくっていくものです。しつこく続けていきます」と力を込める。
普天間基地へのオスプレイ配備から、この10月で10年がたった。普天間のオスプレイは16年12月に名護市沿岸に墜落し、17年にも豪州で墜落した。昨年11月には宜野湾市野嵩の住宅街に金属製の水筒が落下する事故が起きた。オスプレイ以外にも目を向けると、普天間第二小学校の運動場にヘリの窓枠が落下するなど、米軍関連の事件・事故は後を絶たない。日本政府は沖縄の民意を無視し、名護市辺野古の新基地建設を進める。日本復帰から50年を経た今も、沖縄では「命の軽視」(神谷さん)が続いている。
普天間ゴスペルでほぼ毎回、歌われる曲がある。平良愛香さんが00年に作詞作曲した「ミルク世(ゆ)チュクラナウチスリティ」だ。「みんなが力を合わせて、平和に安心して生きていける世界をつくっていこう」といった意味になる。歌詞の一節はこうだ。
「どんなに とおくおもえても かならずその日はくる
どんなに とおくおもえても いまその日は近づいてる
どんなに むずかしく思えても かならずその日はなる
どんなに むずかしく思えても いまその日は近づいてる」
琉球音階を使った伴奏に、参加者それぞれの思いが乗る。
歌の途中に上空を米軍機が飛び、ごう音をまき散らすこともある。そんな中でも、静かに祈り、平和を願う。「NO! BASE(基地は要らない)」ののぼりを掲げ、ゴスペルの歌声が響き合う。そこに基地がある限り。
(ノンフィクションライター・眞崎裕史)