ひめゆり学徒隊だった叔母は沖縄戦で亡くなった。平和のために何か行動したい。しかし、拳を振り上げるデモ行動にはためらいがある。そんな時、新聞で目にしたのが「普天間基地ゲート前でゴスペルを歌う会」だった。

 最初は休みを挟みながら通い、5年ほど前からは、ほぼ毎週参加するようになった。今では司会も担当し、その時々に感じたことを話す。

「普天間基地は沖縄の戦後史が凝縮された場所。人の土地・生活を奪って基地を造って、そこから今も、米軍機が保育園の上空を飛んでいます。家で一人新聞を読んでいると、あまりに大きな現実に負けそうになります。でもゲート前に行くと違う。同じように祈っている仲間がいて、力をもらえる。主張しても変わらないかもしれない。でも諦めたら終わり。いくら小さなともし火でも、ともし続けないといけません。実際その火が、全国にも広がっています」(同)

 沖縄を思い、平和を求めてゴスペルを歌う活動は、普天間から始まり、東京や神奈川、大阪など全国約10カ所に広がっている。

 首相官邸前では、12年11月に始まった。第4月曜日の月1回、普天間と同じ午後6時のスタートだ。「普天間と連帯する、という思いがすごく強かった」と、事務局で牧師の平良愛香さん(54)=横浜市=。なぜ首相官邸前なのか。かつて平良さんは、沖縄の人にこう問いかけられたという。「私たちは訴えるために、飛行機に乗って東京に行くことがある。どうして東京の人は、電車で行けるのに行かないのか」。平良さんは「本当にそうだ」と思ったという。

「日本政府に一番近くで訴えられるのは官邸前。台風の日も大雪の日も、一日も欠かしたことがありません」(平良さん)

 現場には「武力で平和はつくれない」と書かれた、大きな横断幕を掲げている。クリスチャンを中心に、毎回20~30人が参加する。ちょうど、官僚らの退勤時間と重なる。反応は冷ややかで、目を合わせる人はいないという。それでも「歌はメロディーが付いているので、聞くまいと思っても届いていると思います」と平良さん。他の市民運動の参加者も加わって、200人近くで歌うこともあるという。

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「沖縄は大変ね」という言葉への違和感