撮影:藤岡亜弥
撮影:藤岡亜弥

 しかし、現実は厳しかった。

「本屋に写真集を置いておくだけでは全然売れないから、写真展をしたり、トークショーをやった。でも、その間はアルバイトができないから……もうなんかね、お家賃が払われていません、みたいなことになってしまったんですよ。そこで、はっと気がついた。こんなことしていたらいけない、と」

「もうこんな生活はやめよう、生活を立て直さなければ」と思い、別な仕事を見つけた。アパートを引き払い、東広島市の山間部に引っ越した。写真をやめるつもりだった。

■「よそ者」の視点で撮る広島

 ようやく出した写真集にも自信がなかった。

「こんな写真集では駄目だと思った。わかりにくいというか、かっちりとした答えを出したわけではないから。こんなんじゃあ、写真をやっていても仕方がないと思って、17年12月に広島市から引っ越した。ところが翌年2月に木村伊兵衛写真賞をいただくことになったんです。写真をやめようと思っていたのに。ふふふ。本当にそんな不思議な力に導かれて写真を続けているっていう感じです」

撮影:藤岡亜弥
撮影:藤岡亜弥

 広島を撮り始めてからもうすぐ10年になる。

「以前のように毎日撮っているわけじゃなくて、ほんとに山から街に下りるような感じで撮影しています。たまに広島に出ると、以前、撮った風景が、ちょっと違って見える」

 長年撮影していても目新しさを失わない。というか、少し離れた視点から広島を撮る、という姿勢は撮影を始めたころから変わらないという。

「私にとって、地元はやっぱり呉。広島には4年半住みましたけれど、ずっと『よそ者』という意識がありましたし、今もあります。ですから、地元広島を撮るっていう感じではないです」

「よそ者」が広島を撮るからには「被爆者の人に会って、話を聞いてみたい。そうじゃないと、なんか、うそになるんじゃないか」と思ったこともある。

 知り合いに依頼して、被爆者と面会した。しかし、相手の話にうなずくばかりで、カメラを取り出せなかった。

「面会を重ねて仲よくなっても撮れないでいると、『あなた、ぼくを撮りなさい』みたいに言われたりした」

 もともと、「広島を撮ってやるぞ」という強い気持ちで撮影を始めたわけでなかった。

「広島のこと全然知らない私が、この街をテーマに撮っていいのかな、といった感じでやってきた。なので、作品づくりはすごくスローです。今もゆっくり、ゆっくり撮っています」

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】藤岡亜弥写真展「New Stories」
入江泰吉記念奈良市写真美術館 11月12日~2月5日

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