東郷:ただ、ロシアは人道的措置として合意された元島民の墓参と、北方4島周辺海域の漁業協定は継続しています。戦争が終わった後のことも考え、日本側に一定の配慮を残すというバランス感覚がありますね。ロシア外交のプロフェッショナリズムを感じます。
伊勢崎:先ほど言ったノルウェーもロシアとの間で国境問題を抱えていました。10年に北極圏のバレンツ海で海域を折半することで合意しました。関係改善を見た両国でしたが、現在のNATOのストルテンベルグ事務総長は、ノルウェーの元首相です。そのせいか、ロシア強硬派が強くなっている。やはり、関係悪化で困っているのは北部の漁業関係者や、ロシアを相手に商売をしていた造船業の人たちなのです。いまヨーロッパのルソフォビア(ロシア嫌悪)は日本以上にひどい。けれども、そういう状況のなかにあっても、停戦に向けた世論も醸成されてきています。日本が戦争をエスカレートさせる方向で翼賛化してしまって、動きが全く取れないのは情けない。国連は事務局ですから、自ら停戦を呼びかけるなど政治的な発言はできない。加盟国のどこかが、停戦に向けて動く勇気が必要です。
木村:岸田氏は今、キーウに行きたくて仕方がない。今回、バイデン氏が電撃訪問したから、G7で行っていないのは日本だけなのです。逆に行けていないことを逆手に取って自分の価値を上げたほうがいい。
東郷:プーチン氏は「兄弟国」であるウクライナを攻めるという“弟殺し”の罪をこれ以上負いたくないはず。ロシア兵だってどんどん戦死しているのだから、即時停戦はみんなに利益があるのです。くり返しますが、外交はタイミングが重要です。岸田氏が広島サミットまでにバイデン氏に停戦を働きかけ、もし事態が動けば国際社会から尊敬されます。今こそ岸田外交を歴史に残すチャンスと捉えるべきです。
(構成/本誌・亀井洋志)
※週刊朝日 2023年3月10日号