「実は、展示していたとき、自分でもちょっと違うような気がしていたので、いろいろと考えるようになった。それで、たどりついたのが今の撮り方です。それ以前と、以降では、写真に対する考え方がぜんぜん違う」
昔の作品については「評価の基準が自分になかった」と、振り返る。
「つまり、みんなが『こういう写真のほうがかっこいい』『面白いでしょ』と、思うような撮り方とセレクトだった。でも、いまの写真は、自分の延長にあるもの、という感覚です。それを見る人がどう思うかは、あまり関係ない」
■コロナ禍で変化した視点
大西さんは、新宿を写した作品「LOST IN SHINJUKU」を主に海外で発表し、写真祭やコンペで優勝するなど、高く評価されてきた。
その続編となる「LOST IN SHINJUKU2」は前作を土台に、新たにセレクトした写真を加えて再構成したものだ。
「前作は、いわば『中の人』が写した新宿、という構成でした。なので、自分自身、それを楽しい気持ちで見ていたわけではなかった。でも今、コロナ以前に撮影した写真を見ると、『ホーム感』を覚えるようになった」
ホームというのは「家」、なじみのある場所という意味である。最近、仕事はテレワークがメインとなり、会社に出勤することは少なくなった。
「そんななか、例えば、家族で江ノ島(神奈川県)に遊びに出かけて、新宿まで戻ってくると、『ああ、帰ってきたな』って、感じるんです。それで、なじみの街が今のぼくにどういうふうに見えるのかな、と思って作品を組み直した」
長時間の通勤がほぼなくなると、生活に気持ちの余裕が出てきた。
「写真を見返すと、もちろん、みんなマスクをしていないし、大勢の人が疲れた顔をして電車に乗っている姿もなつかしい。以前はそういうことがあったよね、という目で撮影した写真を見られるようになってきた」
もちろん、新宿を訪れる回数は減ったものの、撮影スタイルに何ら変わりはない。そこに写るのはやはり大西さんにとっての「なじみの街」の姿である。
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】大西正写真展「LOST IN SHINJUKU2」
ギャラリーニエプス(東京・四谷) 11月29、30日