イラスト/ウノ・カマキリ

 強硬論に傾いた軍部は自信過剰になり、蒋介石に戦費など賠償金を出せと要求した。

 蒋介石が賠償金など出すはずがないし、近衛首相もそんなことは考えていなかっただろう。一刻も早く三者会談をしたかったはずだ。しかし、36年に起きた二・二六事件が決断に影響したのだろう。気が弱い近衛首相は、軍部の要求を否定すると殺害される恐れがあると考えたか、「国民政府を対手とせず」などと言って、まったく展望のない日中戦争を押し広げてしまったのである。

 こうして、日本はまったく勝ち目のない太平洋戦争を行わざるを得なくなった。そして敗戦する。

 だから、こうしたいきさつを知る世代の政治家たちは、日本が主体的な安全保障を考えること自体が危険だと捉え、安全保障を根幹から米国に委ねることにしてきた。

 だが今、米国の経済が悪化し、オバマ、トランプ両大統領などがパックス・アメリカーナ、世界の警察の役割の放棄を表明した。

 そこで日本に協力せよと要請してきたのである。それに応じないと日米同盟が持続できない、と。

 日本はどうすべきなのか。重大な分岐点である。日米同盟を持続しながら、平和国家という主体性を守れるのか。

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数

週刊朝日  2023年3月10日号

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