撮影:西澤丞
撮影:西澤丞

■SFのようだった東京の地下

 西澤さんは1967年、愛知県豊橋市生まれ。愛知教育大学で美術を学び、自動車メーカーのデザイン室に勤めた。

「ところが、当時はバブル時代で、雇っても雇っても人手が足りなかった。デザイン部門に就職したんですけれど、車の生産ラインに行かされた。40代の係長も組み立てに行かされた。当然、夜勤もある。自分の将来を会社に決められてしまうのは怖いと感じました。それで手に職をつけようと思い、広告写真の撮影を専門とする会社に転職した」

 独立してフリーの写真家となったのは2000年。4年後、東京・日比谷の地下で建設中の「共同溝」を撮影する機会があった。共同溝というのは電線や電話線、ガス管、水道管などをまとめて通すトンネルである。その写真は現場見学会の告知用で、国土交通省のHPに載せるためのものだった。

「中学生のころから工事現場に興味があったんです。フェンスに覆われて中がよく見えないじゃないですか。何をやっているのかな、と思った。で、フリーになってしばらくしたときに撮らせてもらったのがその共同溝の写真だった」

 トンネルの直径は約10メートル。それをシールドマシンという巨大な装置で掘り進めていく。

「地下深くでシールドマシンを組み立てる様子は世間で言われるような3Kみたいなイメージとは全然違っていた。まるでSFのようだった。一方、現場の人からは、いろいろ誤解されて周囲の住民からよく苦情を言われる、と聞かされた。それで、この世界は被写体として面白いし、それを伝えることは世の中の役に立つと思った。以来、このシリーズをずっと撮り続けています」

撮影:西澤丞
撮影:西澤丞

■ロケットは7年

 これまでにまとめた写真集は『Deep Inside』『首都高山手トンネル』『鋼鉄地帯』『福島第一 廃炉の記録』など9冊。手にとってもらいやすいテーマは、大きくてわかりやすいものだが、西澤さんの興味はそれに縛られない。

「取材してみたいことを思いついたらノートに書き込んでいきます。例えば、新聞を読んで面白そうなことやっている会社があったら調べ始めるとか。知り合いに教えてもらうこともあります」

 難しいのはやはり、許可取りだ。同業他社のある業界であれば「メンタル的にも楽」だという。ところが、そうはいかない場合もある。

「例えば、JAXA(宇宙航空研究開発機構)さんの場合は、断られたら次がなかった。ロケットといえば、JAXAしかありませんでしたから。でも、全然ダメだった。『何かあったら、どうするんだ』の一点張りで」

 結局、取材許可をとるまでに7年を要した。

「まあ、そういうところが胃が痛いですね。実績を重ねた今でも、いっぱい断られます」

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】西澤丞写真展「DEMIURGOS」
Nine Gallery(東京・青山) 12月6日~12月11日

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