イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ氏が3度目の首相に返り咲き、新政権は、極右志向が強まるといいます。AERA dot.コラム「金閣寺を60回訪れたイスラエル人教授の“ニッポン学”」。今回は、イスラエル政治について。
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イスラエル史上最長となる通算15年以上首相を務めたネタニヤフ氏が、1年半の首相明け渡しを経て、再び戻ってきました。ネタニヤフ氏を首相とする新しい連立政権が発足し、中道左派でたった6カ月間首相の座にいたヤエル・ラピド氏と入れ替わります。
ネタニヤフ氏は1996~99年、2009~21年の2度にわたって首相を務めましたが、複数の収賄罪などに問われ、度重なる選挙を経て、21年6月に退陣に追い込まれました。しかし再び、今年11月の選挙でネタニヤフ氏陣営が勝ち、右派政党と連立を組むことで3度目の首相の座に戻ることになります。
ラピド氏からネタニヤフ氏への政権交代は、イスラエル社会における二極化の深まりを反映しています。ラピド氏とネタニヤフ氏はイスラエル社会の2つの対立する陣営を率いています。ラピド氏は中道左派の有権者を代表しており、一般的にはイスラエル国家の民主主義的な側面を重要視し、リベラル志向で、平和的な手段でパレスチナ人との紛争解決を求めます。
一方、ネタニヤフ氏が率いるグループは、保守派、ユダヤ宗教派、極右派政党で、彼らは国家のユダヤ的価値を重要視します。このような二極化の過程は、日本人には理解しづらいかもしれませんが、おそらく、日本において自民党を中心とした保守派と社会党を中心とした社会主義者が2つの大きな政治陣営に組織された「55年体制」以前の、1950年代初頭の日本の政治状況と少し似ているかもしれません。
ネタニヤフ氏の新政府は、彼が党首として率いる保守的な「リクード」党を中心に宗教政党と右派政党を包含する連立政権です。 この新政府の最も心配な要因の一つは、影響力のある大臣の地位を与えられる予定の3人の急進的な人物が含まれていることです。 イタマル・ベングビル氏、ベツァレル・スモトリッチ氏、アビ・マオズ氏、この3人の極右政治家は偏狭で知られ、非ユダヤ人、LGBT、難民、およびイスラエル社会でリベラルな傾向と見なすものに対して差別的な視点を持った政治家として知られています。