「手術日の朝、看護師さんから『お守りとか持って入れますよ』と言われたので、まつりの写真と財布を持っていきました。腹腔(ふくくう)鏡手術で10時間。ステージ1という診断でしたが、転移しやすいガンとのことで、肺から骨盤にかけて、リンパ節を切除しました。手術後も痛みがひどく、退院までかなり時間がかかりましたね。それでも、今は治療のかいあって日常生活に大きな支障はありません。まつりが天国から助けてくれたのだと思います」
幸美さんは、まつりさんが生きていた7年前の夏にも、子宮ガンが疑われたことがあった。検査の結果、ガンでないことがわかったが、まつりさんは何度も静岡県の実家に戻って幸美さんを見舞った。
「お母さんがガンだったらどうしよう」
まつりさんは、電通のオフィスで涙を流していたと打ち明けたという。
一方で、まつりさんの体は、体力的にも精神的にもぼろぼろになっていった。
今も残っているまつりさんのツイッターには、
「1日20時間とか会社にいるともはや何のために生きてるのか分からなくなって笑けてくるな」
「死にたいと思いながらこんなにストレスフルな毎日を乗り越えた先に何が残るんだろうか」
と電通で過酷な状況下にいた様子が書かれている。
まつりさんの自殺後、電通では毎年この時期に社内に献花台が置かれ、数多くの社員が足を運ぶという。電通の社員に聞くと、
「まつりさんの死後、労働環境はかなり改善されましたけど、ブラックであることは変わりなかったです。それがコロナの感染拡大で在宅勤務が増え、かなりまともになりました。それでも他の会社からみればブラックでしょうかね」
と苦笑する。
幸美さんが今年、印象に残ったのは東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件だという。
電通の元取締役で、大会組織委員会の理事だった高橋治之被告が逮捕され、便宜を図ってもらったとされる大手企業や広告会社の関係者も立件された。