「まつりが悩んで、追い込まれたのは、電通のパワハラ的な体質です。ニュースを見る限りですが、電通にも顔が利く高橋被告が、その強大な力を背景に起こした事件ですよね。電通でも法に触れるようなことはしたくない社員が、大きな負担を強いられたんだと思います」

 以前、元気いっぱいのまつりさんが、週刊朝日の忘年会に来てくれたことがあった。恒例のビンゴ大会で、まつりさんが大喜びして手にしたのはエスプレッソマシンだった。それは今、幸美さんが保管していた。

「まつりは、亡くなる1カ月前、私を東京に呼んで食事に誘ってくれて、ミュージカルを観に行きました。私がガンではなかったという快気祝いでもありました。その時、まつりが、『お母さんいつまでも元気で』とメッセージが入ったケーキをプレゼントしてくれました。『週刊朝日でもらったエスプレッソマシンで飲んでね』てマシン用のコーヒーも買ってくれて……」

まつりさんに誘われ、ミュージカルに一緒に行った時の写真
まつりさんに誘われ、ミュージカルに一緒に行った時の写真
亡くなる1カ月前に、東京で幸美さんと食事をした時のまつりさん。「お母さん いつまでも元気で」のメッセージ入りのケーキ
亡くなる1カ月前に、東京で幸美さんと食事をした時のまつりさん。「お母さん いつまでも元気で」のメッセージ入りのケーキ

 現在の幸美さんは、月に1度、数日間入院して抗がん剤治療を受けている。

「治療のせいで髪の毛もかなり抜け落ちてしまったけど、眉毛はまだ大丈夫(笑)。治療は大変ですが、まつりのためにも、いつまでも元気でいて電通の監視を続けなければならないのです。それが他にも過酷な労働で困っている方々のためにもなるんじゃないかと思います」

 電通からは毎年、労働環境改善の「報告書」を受け取り、幹部とも話し合いを続けているといい、長時間労働やハラスメント、過労死の根絶に向けた活動にも力を入れている。

「今でも過労死を認める判決が出されるなど、大手企業でも労働環境の実態は変わっていないです。まつりのような悲劇、悲しみを二度と生むことがないように、厚生労働省や国会議員にも、改善を訴えていきます。そのためにも、私はまだまだ、元気でいなければならない」

(AERA dot.編集部 今西憲之)

著者プロフィールを見る
今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

今西憲之の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
【フジロック独占中継も話題】Amazonプライム会員向け動画配信サービス「Prime Video」はどれくらい配信作品が充実している?最新ランキングでチェックしてみよう