英国では今年の夏、10月より家庭の電気・ガス料金の上限を80%の引き上げることが発表されています。そして実際、この冬の英国の低所得世帯の4分の1以上が家を適切に加熱できていないのではないかと、推定されています。これまで寒い家に住んでいることは、さまざまな深刻な健康状態と過剰な冬の死亡率に関連していることが報告されており、寒い家に住まざるをえないことは英国で重大な問題となっているようです。
その一つが、精神面への影響です。寒い家に住むことがどのような精神的影響を及ぼすかについて、オーストリアのアデレード大学のAmy氏らが英国家計縦断調査のデータを用いて行った調査があります。その調査によると、調査開始時に精神的苦痛がなかった人が寒い家(適切に暖かいとはいえない家)に住むことによる精神的苦痛のリスクは約2倍であり、調査開始前に重度の精神的苦痛の境界線上にいた人が寒い家に住むことによる精神的苦痛のリスクは、3倍以上となることが示されています。
先日受診された、コロナのパンデミック以降在宅勤務になってしまったかかりつけの患者さんは「どうも部屋が寒くて仕事に集中できないから暖房器具を購入したら、電気代が跳ね上がってびっくりした……」と嘆いておられました。私も寒さはどうも苦手です。特に最近の寒さのせいで、暖房器具をつけ続ける日が続いているため、来月の電気代の請求額が正直なところ恐ろしいです。
日本では年末年始にかけても寒気が流れ込みやすく、厳しい寒さが続く予報となっています。コロナの冬の流行が依然と続いている状況ではありますが、感染対策に目を向けるだけでなく、温暖化に伴う異常気象による健康影響にも真剣に取り組む必要がありそうです。
山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)