『パラレルワールドのようなもの』
(2420円〈税込み〉/思潮社)6年ぶりとなる文月さんの第4詩集。2016年から22年に書かれた詩から、26篇を収録。「わたしが透明じゃなくなる日」の後半は、第1詩集に収録されている「私は“すべて”を覚えている」へのアンサーでもある(photo 大野洋介)
『パラレルワールドのようなもの』 (2420円〈税込み〉/思潮社)6年ぶりとなる文月さんの第4詩集。2016年から22年に書かれた詩から、26篇を収録。「わたしが透明じゃなくなる日」の後半は、第1詩集に収録されている「私は“すべて”を覚えている」へのアンサーでもある(photo 大野洋介)

 自宅で死ぬ。無観客で死ぬ。/女だからという理由で押し倒され、/「幸せそう」という理由で刺し殺される。/ひとりで死ね、と言われてしまうような/都合の悪い存在はすべて毒とみなされ、/「パラレルワールド」に送り込まれた。

「今まで、自分の内面的なことを詩にすることが多かったのですが、本書の作品は、その時代を記録するドキュメントのような読み物になったと思います」

 本書は文月さんの第4詩集になる。2016年から22年にかけて執筆した詩から、26篇を選んだ。20代後半、ダブルワークをして自分を酷使していた時代に書かれた「青虫の唄」から、コロナ禍に書いた詩、そして恋人をテーマにしたユーモラスな「わたしのくまさん」と、詩人としての「現在の到達点」となった。

「これまで執筆のためにも、つらい出来事すら忘れてはいけないと思っていました。でも今年、久々の引っ越しを機に、人生で初めて、つらいことは忘れていいんだと思えたんです。そうしたらすごく気持ちが楽になりました。大事なことはこの本に記録されているから、私は忘れて大丈夫という思いもあります」

 東京五輪開会式の日に、30歳を迎えた。30代の文月さんから生まれる詩は、どんな世界になるだろう。(編集部・大川恵実)

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