患者さんと訴訟やトラブルになることは歯科医師も望んでいませんし、患者さんも同じ気持ちだと思います。さらに、多くの歯科医師は、来院した患者さんが治療計画通りにうまくいき、「ここに来てよかった」と喜んでくれる診療をめざしています。
このように、いい結果が得られるように私たちが努力しなければならないことはもちろんですが、ぜひ、患者さんにも知っておいていただきたいことがあります。
それは、歯科治療に対する患者さんのからだの反応は個人差が大きく、100人いたら100人違う、ということです。
例えば、矯正治療では歯に力をかけて移動させることをしますが、移動のスピードは実は一人ひとり、違います。多くの人は平均的なスピードの範囲内ですが、歯槽骨(しそうこつ)が硬かったり、そこに埋まっている歯の形などによっては、大幅に時間がかかることがあり、治療期間が長くなることもあります。
インプラントの手術後は、インプラントを埋め込んだ部分の歯ぐきを清潔に保たないと炎症が起こり、膿(うみ)などが止まらなくなるとせっかく入れたインプラントを抜かなければならないことがあります。そうならないために、手術前には口の中をきれいにし、術後も清掃に力を入れますが、どんなに頑張っても、このようになってしまう人がいます。患者さんが歯みがきをしっかりしてくれることも欠かせませんが、糖尿病の悪化で免疫力が低下するなど、からだの状態が悪いと、インプラントが生着しにくくなると言われています。
また、むし歯で歯を大きく削った後にはかぶせものをしますが、「本物と同じように見える歯がいい」と、白いセラミックスのかぶせ物を希望する人が少なくありません。最近ではセラミックスの中でも、人工ダイヤモンドの材料であるジルコニアを100%使用したフルジルコニアのセラミックスに人気が集まっていますが、フルジルコニアはとても硬いので、歯ぎしりや食いしばりの習慣がある人には向きません。実際、数年もたたないうちに割れてだめになってしまうことが珍しくないのです。