もう一つの治療法である外科手術には、開腹手術と、腹部に開けた小さな穴からカメラや治療具を挿入しておこなう腹腔鏡手術、および腹腔鏡手術をロボット支援で実施するロボット手術があります。

 大腸がんを腹腔鏡手術やロボット手術で治療することが多い大阪医科薬科大学病院一般・消化器・小児外科教授の田中慶太朗医師は、最近の腹腔鏡手術について次のように語っています。

「腹腔鏡手術では、カメラが映す大きな画面を見ながら手術をしますが、家電のテレビなどで普及している4Kや3Dが腹腔鏡治療で使用する医療機器にもとり入れられ、非常にクリアな画面で手術ができるようになっています」

 大腸がんのなかでも直腸にできたがんが肛門に近ければ、がんを取り残すことなく切除したうえで肛門を残すのか、肛門まで含めて切除して人工肛門を造設するのかを選択することになります。その場合の田中医師の見方は次のようなものです。

「肛門近くの手術をすれば、程度の差はあっても、頻繁に便が出る、便が漏れるなどの排便障害が避けられません。人工肛門では排泄手段は変わりますが、慣れればトイレを気にすることなく仕事ができ日常生活を送ることができます。肛門温存による排便障害や人工肛門についてもそれぞれのメリット・デメリットなどの説明を事前にしっかり受け、セカンドオピニオンも利用して選択するとよいでしょう」

 大腸がんに対して今も一定の割合で開腹手術を行っている防衛医科大学校病院下部消化管外科教授の上野秀樹医師は、その背景を次のように述べています。

「大腸がんに対する開腹手術には長い歴史があり、過去の臨床試験も開腹手術がベースになってきました。再発を抑え患者さんの命を守るといった長期の治療成績に関して、腹腔鏡手術が開腹手術に勝ることを示した臨床試験はありません。逆に、手術難度の高い症例や進行度の高い症例では腹腔鏡手術をおこなった患者さんの予後が悪い傾向が報告されており、ガイドラインでもこの点を考慮して慎重に腹腔鏡手術の適応を決定する必要性が述べられています。低侵襲性は腹腔鏡手術のとても大きな利点であり、当院でも現在これを基本術式としていますが、腹部手術歴のある患者さんや肥満の人、がんの進展が広い場合には、術後合併症や再発を予防する観点から、開腹手術のほうが患者さんのためになると考えられる場合があります」

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大腸がんの治療で、近年大きく変わったこととは