発症する部位によって、その近くを通る神経に影響を及ぼし、さまざまな機能障害を起こす脳腫瘍。良性の場合には命に関わることはありませんが、機能障害によりQOL(生活の質)を落とすことも多いため、できるだけ早く適切な治療を受けることが重要な疾患です。
脳腫瘍は、最初から脳にできる原発性と、他の臓器のがんが脳に転移した転移性に分かれますが、ここでは、原発性脳腫瘍について紹介します。本記事は、2023年2月27日発売の『手術数でわかる いい病院2023』で取材した医師の協力のもと作成し、お届けします。
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■脳腫瘍はどのような病気か?
脳腫瘍とは、頭蓋骨におおわれた脳内やその周辺に発症する腫瘍です。詳細に分類すると150種類以上にもなり、米国の統計では年間10万人に20人程度と言われ、発症原因は明らかではありません。
脳腫瘍は、大脳や小脳といった脳実質にできる場合と、脳をおおう髄膜や、脳神経など脳実質外にできる場合があります。悪性と良性がありますが、脳実質にできる腫瘍の多くは悪性です。脳腫瘍の悪性度は「グレード」で示され、グレード1は良性、グレード2~4が悪性です。
東京女子医科大学病院脳神経外科教授・基幹分野長の川俣貴一医師は次のように説明します。
「悪性腫瘍は正常な脳と腫瘍との境界がはっきりしていない場合が多く、増殖速度が速く、周辺の組織に染み込んでいくような広がり方をするため、腫瘍のみを完全に取り除くのが難しく、再発も起きやすいです。代表的な悪性腫瘍は神経膠腫(こうしゅ、グリオーマ)です」
神経膠腫では、痙攣(けいれん)や、部位により片麻痺(まひ)、言語障害などの症状が見られ、脳ドックで発見される場合もあります。神経膠腫の場合はグレード2~4の悪性です。一般的に良性腫瘍とされるなかにも、グレード2、3に分類される悪性のものもあります。
一方、脳実質外にできる腫瘍は良性の場合が多く、正常組織との境界が一般的にはっきりしています。代表的な腫瘍には、髄膜腫、神経鞘腫(しょうしゅ)、下垂体腺腫などがあります。良性腫瘍の発症しやすい年齢は40~60代で、やや女性に多いです。
「腫瘍が大きく脳幹などの脳実質を圧迫していると手術が難しくなりますが、そうでなければ腫瘍のみを取り除くことも可能です。良性腫瘍の多くは命に関わることはありませんが、腫瘍が位置している部位の脳や神経を障害せず、からだの機能を損なわないように治療するには細心の注意が必要です」(川俣医師)