
このため、鉄が不足すると筋力低下や疲労感が生じるほか、不安や不眠、うつ状態といった精神的な症状が出ることもある。
「貧血がなくてもフェリチン値が低い人(15ng/ml以下)は、鉄剤を使用することで全身倦怠感やさまざまな自覚症状が改善するという多くの報告があります。さらに不安やうつなどの精神症状も改善するといった報告が続き、注目されています」(岡田医師)
隠れ貧血かどうかは、血液検査のフェリチンの値で知ることができる。世界保健機関(WHO)は、思春期以降はフェリチンが15ng/ml未満であれば鉄欠乏としている。また「日本鉄バイオサイエンス学会」では、フェリチンの基準値を男女とも「25~250ng/ml」とし、「12~25ng/ml」は貯蔵鉄の減少、「12ng/ml以下」は貯蔵鉄の枯渇としている。
「平成21年国民健康・栄養調査」によると、フェリチン値が15ng/ml未満の成人男性は約3%なのに対して、成人女性は約23%。鉄不足は圧倒的に女性に多いことがわかる。特にフェリチンが減少しやすい20~40代の女性は約48%が15ng/ml未満だ。この中にはヘモグロビン値も低い鉄欠乏性貧血の人もヘモグロビン値は正常な隠れ貧血の人も含まれる。
20~40代の女性に鉄不足が多いのは、月経で鉄を失うためだ。獨協医科大学埼玉医療センター輸血部部長の樋口敬和医師はこう話す。
「1回の月経周期で失う血液量は個人差が大きく、年齢によっても異なりますが、20歳前後では推定平均37mlと言われ、1年間に約450mlの血液を失います。血液1mlには約0・5ミリグラムの鉄が含まれているので、200ミリグラム以上の鉄が1年間で失われるのです」
貧血の人は、根本的な原因に過多月経があることが少なくないが、隠れ貧血は正常な経血量でも起こりうるということだ。