しかも、スタジオには彼ら2組しか存在せず、それ以外の出演者はいない。そこは芸人だけの空間なので、ほかの分野のタレントの目線に合わせたりすることなく、彼らが全力を出すことができる。だからこそ、この番組では、ツッコまれる前提で羽目を外してふざけまくったり、行き過ぎた悪ノリを展開したりする4人の姿が見られる。そこが最大の売りになっている。
しかも、形式上、千鳥とかまいたちが敵と味方という立場に分かれているのも良い。彼らは、相手チームの挑戦者に対しては「失敗してほしい」という悪意をむき出しにして野次を飛ばしたりする。そして、自分のチームの挑戦者には、優しい目線でフォローを入れたりする。いわば、2組の間で「ボケ」と「ツッコミ」に似た関係性が作られ、それが次々に入れ替わっていくことになる。
はっきり言えば、この番組を見てどちらのチームが勝つのかということに本気でこだわっている視聴者はほとんど存在しないだろう。彼らが2チームに分かれて競い合っているのは、その中でお互いがVTRに出演する挑戦者をそれぞれの立場でイジり倒すという環境を作るためであり、勝敗そのものが重要なわけではない。
VTRの作り方も、ややイジる側の目線に立っていて、千鳥とかまいたちのツッコミやイジりを誘発するようになっている。お笑い番組として最も見せたいところを引き立てるために、番組全体が緻密に組み上げられている。
さらに言うと、この番組が多くの視聴者に支持されている理由は、上質なお笑い番組として楽しめるだけではなく、単なるカラオケバラエティ番組としてぼんやり眺めていてもそれなりに面白いものになっているからだ。
お笑いファンや感度の高い若者が腹を抱えて笑えるだけではなく、それ以外の一般層もしっかり取り込んでいるところが実に周到である。
思えば、いまやお笑い界最大のヒットコンテンツとなった『M-1グランプリ』も、マニア層とライト層の両方に刺さっているタイプの番組である。そのように今の時代の理想的なお笑い番組のあり方を体現している『千鳥の鬼レンチャン』は、ここからさらに勢いに乗って、高視聴率の「鬼レンチャン」を見せてくれるかもしれない。(お笑い評論家・ラリー遠田)