匿名で書き込むことも、倫理観を麻痺させている部分があるのだろう。もし、ネット上で誹謗中傷の書き込みをしたとして、名誉棄損で訴えられた場合はどうなるのか。
「被害者の弁護士から内容証明郵便が送られてきます。名誉を棄損されたとして慰謝料と発信者の情報開示請求費用を求められるので、100万円~150万円程度が相場になります。誹謗中傷の文章の中身、書き込んだ件数によってさらに高額になるケースもあります。加害者側が示談で解決するケースは5、6割で、残りの人たちは支払いに応じず、民事裁判になります。支払いに応じない人たちの中で働いていないなど返済能力がない割合が2、3割。残りは『私のネット上の書き込みは名誉棄損に当たらない』と争うことになる」
今回、SNS上で話題になっているのが、インターネット上の投稿で名誉を毀損され、精神的苦痛を受けたとして、廣瀬さんの母親に訴えられた女性が争う姿勢を示していることだ。
ネット上では、「誹謗中傷を正当化させるなら実名報道でいいのでは」、「反省する姿勢が全く見られない。こういう人間がなぜ実名で報じられないのか。匿名で報じているから、被害者家族に対する誹謗中傷の書き込みがなくならないんだよ」など女性が匿名で報じられていることに怒りの声が多い。
田中弁護士は「ネット上の書き込みを巡り、名誉棄損で争う姿勢を示すことは決して珍しくはありません。弁護側は色々な事情があると思いますが、反論の余地があるならばせざるを得ない。加害者の実名報道については、そもそも名誉毀損に該当するかどうか不明確な状況であり、難しいと思います。仮に民事上違法と裁判所に認定されたとしても民事と刑事ではハードルが若干異なり、刑事事件としては立件されないケースもありますので、やはり実名報道は難しいと思います」と語った上で、こう続けた。
「これだけ社会的反響が大きい事件で示談に応じず、民事裁判で争うことはリスクが伴います。誹謗中傷は、被害者側から名誉棄損罪、侮辱罪、脅迫罪、業務妨害罪などで刑事告訴される可能性があるほか、これは許される行為ではないですが、ネットの『特定班』に加害者の本名、職場などの個人情報をさらされる恐れもある」
旭川地裁がどのような判決を下すか注目される。(今川秀悟)