また、再発予防のためにTUR-BT 後におこなわれるBCGの膀胱注入療法は、排尿痛や血尿など、副作用が強くあらわれることがあるため、再発のたびにBCG注入療法を受けることに耐えきれないケースもあります。

「TUR-BTは基本的には何回でも受けられます。しかし、何度も再発を繰り返すケースや、BCGの副作用が強く、注入療法を続けられないケースでは、患者さんが膀胱全摘除術を希望することも少なくありません」(高尾医師)

 なぜ膀胱がんに再発が多いのでしょうか。

 その一つの要因として、TUR-BTの際に小さながん細胞を判別しにくいことや、粘膜の下に広がる「上皮内がん」が隠れている可能性が考えられています。

 上皮内がんは粘膜上皮の下に広がるがんで、粘膜の表面に突出することがないため見つけにくく、尿路上皮がんよりも悪性度が高いとされています。上皮内がんは尿路上皮がんに併発するケースもあり、そうなるとより見つけにくいといいます。

■再発率の低下が期待できる新しい診断法も登場

 2017年に保険適用となった「光線力学診断(PDD)」は、膀胱がんの再発率の改善に寄与するのではないかと期待が寄せられています。

 PDDは、がん細胞に集まる性質のある「光感受性物質」のひとつ「アミノレブリン酸」という物質を、TUR-BTを受ける前に服用することで、術中にがん細胞を光らせることができるというものです。

 高知大学病院泌尿器科教授の井上啓史医師はこう話します。

「がん細胞と正常組織との区別が容易につくために、小さながんや上皮内がんでもTUR-BT時に取り残しがないか確認しながら切除することが可能になりました。がんを確実に切除できれば、再発率も改善できると期待しています。PDDは現在、脳腫瘍の診断にも用いられています。膀胱がんではTUR-BTの治療時だけでなく、検査や検診への適応拡大、さらにはほかのがんへの適応拡大に向けて、研究開発が進められています」

 膀胱がんの予防のためには、なによりもまず、禁煙することです。喫煙者の膀胱がんの発症リスクは非喫煙者の2.14倍にものぼります。そしてがんを早期発見するために、血尿が出たら、それがその後止まったからといって油断せず、早めに泌尿器科を受診しましょう。

(文・別所 文)

【取材した医師】
大阪急性期・総合医療センター泌尿器科主任部長 高尾徹也医師
高知大学病院泌尿器科教授 井上啓史医師

大阪急性期・総合医療センター泌尿器科主任部長 高尾徹也医師
大阪急性期・総合医療センター泌尿器科主任部長 高尾徹也医師
高知大学病院泌尿器科教授 井上啓史医師
高知大学病院泌尿器科教授 井上啓史医師

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