■筋肉の層に達しているかどうかで「生存率」が大きく変化

 膀胱がんの約80%は、膀胱の内側の粘膜の表面(尿路上皮)にできる「尿路上皮がん」です。粘膜の表面やごく浅いところに、イソギンチャクやカリフラワーのような形で発生します。がんの性質(悪性度)にもよりますが、多くは進行するに従って、上皮の下に根っこを伸ばすように増殖します。

 膀胱粘膜は、いちばん表面が上皮、その下に粘膜下結合組織という層があり、さらにその下に筋層(膀胱の筋肉の層)があります。膀胱がんでは、筋層にがん細胞が到達しているかいないかが、治療後の生存期間を決定づける重要なポイントになります。

 筋層に届いていない「筋層非浸潤性膀胱がん」の段階で治療をおこなうと、5年生存率は90%以上と高い治癒率に。一方、筋層に到達している「筋層浸潤性膀胱がん」になると、5年生存率は50~70%に低下してしまいます。「浸潤」とは、がん細胞が正常な組織にしみこむように広がる様子を表します。

 大阪急性期・総合医療センター泌尿器科主任部長の高尾徹也医師は次のように話します。

「膀胱がんは筋層に浸潤していると、再発や転移のリスク、治療後の生存期間など、すべての成績が悪くなります。それだけでなく、筋層浸潤がある/なしで治療法も大きく異なります。浸潤があると膀胱と周辺の臓器を手術で摘出したうえで、尿道と出口を新たにつくる『尿路変向術』という手術が必要になるため、治療後の生活の質(QOL)が低下してしまいます。筋層非浸潤の段階でがんをとらえて、適切な治療を受けることがなによりも大切です」

■浅いがんを削り取れて、組織の病理検査もできる「TUR-BT」

 膀胱がんでは進行度に関係なく、すべての症例で、まず「経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)」がおこなわれます。TUR-BTは尿道から内視鏡を入れて、先端についた電気メスでがんを削り取る手術です。がんを削り取ると同時に、切除したがん組織の病理検査もおこなえるため、がんの進行度や悪性度を確認する検査の一方法でもあります。

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膀胱を取ると「尿路ストーマ」が必要に