日本は財政民主主義をとる国ですから、経費が膨らむならば、家計負担に転嫁するか、政府が補助するか、いずれかのメカニズムになります。そのうえで、東京だからこそ通じるのが、私学への投資という考え方でしょう。私学の良さは特色のあるカリキュラムを組めること。また、都内には私立中学が187校あり、私学の厚みは全国一です。世界で戦うには、先進国のリーダー層と比肩していくためにも教育水準を常にアップデートする必要があります。東京の私学には、先陣を切って教育の質を高め、将来の人材育成を担う役割があります。私は、そのための補助は必要だと考えています。
ただ、そのやり方として、対象家庭への10万円助成でどれだけの効果があるのかは疑問です。都が負担軽減を図るなら、私学への助成金を増やすことで授業料を解決するほうが本筋だと考えます。家計の負担という面からみると、私立中学に行かせたいけれど行かせられない、という家庭もあるでしょう。授業料の負担を減らし私学を目指す層の間口も広げることは、将来に向けた厚みのある人材育成に繋がるわけです。その意味では、優秀な人材を得て恩恵を受けているであろう、企業からの法人税をまわすことも一策だと考えます。
また、「進学する数年前からの塾通いがあたりまえ」という今の時代、受験準備の段階で既に費用がかさんでいます。まず、塾に行くための助成費こそ必要というのが実態でしょう。そして私学側の挑戦として、低所得層や中間所得層出身の生徒たちが一定の成績基準をクリアしたら、6年間授業料無償などの特待生枠を設けてはどうかと考えます。そういった制度を実施している学校に、都は手厚い助成をすればよい。そうすれば、私学の公共性を高め、教育の機会均等策の一つになるはずです。
■所得制限は分断と排除を生み出すロジック
今回の政策は、世帯年収910万円未満を対象とする、という所得制限が設けられています。そもそも私立中学に通わせている家庭は世帯年収1000万円以上の層も多いでしょうから、支給対象が限定されることになります。高所得世帯の子どもならば切り捨ててよいのか。また、909万円と910万円の世帯の違いは何なのか、私立中学に行かせるには世帯年収910万円が最低ラインなのか、といった細かな疑問が起こってきます。所得制限を設けることで、子育て世帯層に分断と排除を生み出してしまっているわけです。