東京都は、私立中学に子どもが通う世帯年収910万円未満の家庭に、年間10万円を助成する制度を検討している。2023年度予算案に、必要経費として40億円が盛り込まれた。東京都では中学生全体の約4分の1が私立中学に通っており、家計の負担軽減策として位置づけられているが、SNSなどでは、「行政が格差を広げる」「私立優遇策」といった疑問の声も出ている。この政策をどう見るか、教育政策が専門の末冨芳・日本大学教授(教育行政学)に聞いた。
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■目的をきちんと説明すべき
10万円という助成額の根拠、世帯年収910万円という所得制限の妥当性は何か。この政策の目的がきちんと説明されていないので、あらゆる立場から批判があがることは当然です。
一般的に経済的体力があるとされる私立中学生世帯への援助に、疑問を感じる人は多いでしょう。「ならば公立中学はどうなるのか」という論が当然出てきます。公立中学の運営費も厳しく、授業料が無償化されているとはいえ、制服代や給食費、学校外活動費など、家計の負担はあります。その声を見過ごしてよいはずはありません。都の財源に余裕がないなか、政策の優先度をどこに置くのか、なぜ私学に置くのか、なおさら説明が必要になります。私学の意義ということを考えたときに、今回の助成策が一時的なばらまきと映り、私学経営に対する疑念に繋がってしまうのは残念なことです。私学への助成が必要ならば、率直に訴えるべきです。
■私学への投資という考え方
一方、特色あるカリキュラムや少人数の丁寧な教育を特長とする私学経営に、お金がかかることは確かです。私学助成金が既に投じられてはいますが、実態としてコストはかさんでいます。光熱費の値上がりによる影響はもちろんのこと、優れた経営者や優秀な教員を確保するリクルート費、ICT導入や探究型授業など教育イノベーションには、外部の研究者や講師を含めた多くの人件費が必要になります。それらが授業料に転嫁して値上がりし、家計に跳ね返っているのが現状です。